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君だけでいい


――そういえば、俺って有名なんだっけ?


顔を見せたら怯えて逃げていってくれるかも、なんて期待を込めてじっと相手を見つめてみた。

が。


「なにガンくれてんだゴルァ!」

「……っ!」


ダンッ!と勢いよく背中をコンクリートの壁に打ち付けられて、そのまま襟首を締め上げられた。


…効果なしか。

まぁ指名手配されてるわけでなし、ヤンキー全体に顔が知れ渡ってるわけじゃないよな。
仁志だって名前しか知らなかったみたいだし。

でもそうなると、このピンチを乗り切るには…『俺は天野だー!葵と小田桐の仲間で、ついでに仁志もちょっとだけ知ってるぞー。参ったかー』って宣言したらいいのかな?

…そんなのまっぴらだ。
せこいし情けない。


「オイ、金出せや」


その言葉に、ふっと我に返った。

それがこいつらの目的なのだろう。

でも何が悲しくて、やっと入荷した輸入版の楽譜を買うための金を、こんな奴らに渡さなきゃいけないのか。





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