君だけでいい
PINCH!
あれから1週間が経った。
その間毎日のように仁志の事を考えては、悩んだり迷ったりして過ごした。
集中力を欠いてピアノの練習もろくにはかどらず、レッスンも上の空で講師に呆れられてしまった。
仁志の顔や声、匂い、指までもが頭に鮮明に刻み込まれて、忘れようと努力しててもちょっとした瞬間に、俺の隙間に入り込んでくる。
でも哲史によれば、仁志から俺のメルアドや携帯番号を聞かれるわけでもなく、顔を合わせても話題にのぼる事すらないので、哲史の中でも無かったことにしたらしい。
きっとタチの悪い冗談だったんだろうなぁ。
ほっとしたような、気が抜けたような。
なんてまたぼけっと考えながら、繁華街を抜けて少し歩いたところにある大きな楽器店に向かっていた。
――あれっ?
向かいの歩道に、アッシュグレーの髪の長身。
カーキ地にピンクのアクセントの入ったスリムなパーカーにダメージジーンズという、シンプルでありながらお洒落上級者っぽい格好で、とても人目を惹き付ける。
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