君だけでいい
◇
「あったかいなー」
夕日が姿を消そうとするその海は少しもの哀しかったけど、今度は何も考えずに景色だけを楽しむことができた。
「ん」
体育座りで前だけを見ていると、俺の好きなミルクティーの缶が目の前に差し出された。
「おっ。ありがと」
…ホットだ。
プルタブは既に開けられている。
缶コーヒーを手にした陽介は胡座をかいて座り、俺に倣って海原を見つめた。
感情の負の連鎖に囚われないように、今度は隣にいる奴のことについて考えてみる。
…こいつはさりげなく優しいんだよな。
しかも喧嘩の時以外は、驚くほど気が長い。
KYって度々言われる俺と真逆な、空気読み達人だし。
これも俺の躾の賜物…じゃなく、持って産まれた性質なんだろう。
今は向ける方向が違ってるけど、こいつの彼女や嫁さんになってその優しさを一身に受けられる人は、きっと幸せだろう。
きっと大事にしてくれる。
…ちょっとだけ羨ましい。
――ん………?
じゃなくて!
俺も見習わなきゃ。ってことだ、うん。
「さ。日も沈んだし、そろそろ行くぞー」
「!?」
俺は立ち上がって陽介の頭にYシャツを被せ、またそれを押し付け返される前に階段に走った。
「おい!走んなよ!」
すかさず叱責が追いかけてくる。
「やだねー。スーパー閉まっちゃうし」
「24時間だ」
「あっそー。よかった」
片足が地面につく度、軽い痛みが右腕に走ったけれど、なぜだかそれも心地のいいものだった。
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