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君だけでいい



――散歩中の人も結構いるから、恥ずかしいんだけど…。


言っても聞き入れられないのはわかってるので、黙ってされるままにしていた。


「うわー、すごい風!気持ちいいー」


海から吹いてくる風が、髪をぐちゃぐちゃにかき混ぜる。

そしてもやもやした陰鬱な心も、強い海風に一気に吹き飛ばされていった。


波打ち際まで行って砂の上に腰をおろしたけれど、吹きつけてくる風が8月にしては冷たくて、普通にTシャツ姿だった身体が思わずぶるっと震えた。


「さむ……おわっ!」


と突然、パサッという音と共に何かに遮られて、視界が暗くなる。


「ちょっと待ってろ」


頭から被せられた物体を剥ぎ取ると…陽介が重ね着してた、薄手の長袖Yシャツ。

そしてそれを与えた当の本人は、元来た道を引き返して階段を登って行った。


「…まったく、うちの子は気がきくねぇ」


俺はくすりと笑いを洩らし、温もりの残る一回り大きなYシャツを遠慮なく羽織って、再び水平線を向いた。


「…あったかいなー」





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