君だけでいい
◇
「ほら。暗くなって閉じこもってたら腐んぞ」
「………ん」
…気を使わせてしまった。
これからは、しっかりしなきゃ。
ただでさえ迷惑かけてるのに、こいつを疲れさせてしまう。
「余計な事考えてんじゃねーぞ。おまえらしくねぇ」
「……うん」
促されて、財布と手渡された合鍵を入れたエコバックを持って家を出た。
いつも学校には直行直帰だったために、この周辺の地理がわからなかったので、きょろきょろしながら陽介の隣を歩く。
「海岸沿いなんだね」
「海好きだろ?」
「そりゃーもう!」
ちょうど夕暮れ時。
海岸沿いの直線道路が夕日で赤く染まって、とても見事なコントラストをつくっていた。
「ちょっと降りたいな」
砂浜へ続く階段を発見した俺は誘惑に負けて、足を止めて隣を見上げた。
「ああ」
陽介はやっぱりな、ってちょっと笑って、俺の左の肘を支えて短い階段をゆっくり降り始める。
「大丈夫だって。ご老人じゃないんだから」
俺を支えて慎重に歩く陽介の、ヘルパーさん並の介護っぷりに、苦笑が洩れた。
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