君だけでいい
◇
「ひどすぎる…買い物行かなきゃ。この辺スーパーとかある?」
「徒歩10分」
「おおーっ」
最高のロケーション!
「なに食べたい?」
「弁当か惣菜でいい」
「えっ?おまえ今までそんなもの……あっ」
そうだった、手が…。
浮わついていた俺の気分は現実に引き戻されて、一気に降下していった。
「…やっぱ米と豆腐の味噌汁と魚」
片手で調理できそうなものに訂正して、陽介はソファーから立ち上がった。
クロがニャッ、と不満の声を漏らして膝からごろんと転がる。
…俺の取り柄といったら、ピアノと料理くらいしかないのに。
そのどっちもまともに出来ないなんて。
「……ごめん」
「なんで謝んだよ」
「ほんとにごめん。負担かけちゃったのに…役に立たなくて」
「役に立つとか、んなもん期待してねぇよ」
「…………」
――駄目だ。
気を張ってないと、ふとした瞬間に卑屈な感情が襲いかかってくる。
気を引き締めようと息を大きく吸ったら、さっきクロにしたみたいに頭をわしっと掴まれた。
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