君だけでいい
Low Tension
ひと通り新居を見て回った後、早速ピアノに向かって左手だけで色々弾いてみた。
「うーん…やっぱ指まわんなくなってるなぁ」
それもそのはず、かれこれ2週間近くも鍵盤に触ってない。
小さい頃は練習をサボることもあったけど、こんなに長いのは初めてだ。
…退院後にレッスン再開の話し合いの電話をくれって先生に言われてたけど、こんなんで大丈夫かな?
その後ハノンを転調させながら1から60までムキになってこなして、精神的に疲れきった俺は、ソファーに座る陽介の隣にふらふらと埋もれた。
「あー疲れた。ちくしょー…クロを独り占めしてくれちゃってさ。絶対すぐなつかせてやるから」
クロのツヤツヤした背中を撫でる。
陽介の膝の上で落ち着いてるクロは、長い指で喉元を擽られて、とろんとした顔で気持ちよさそうに喉を鳴らしていた。
「うわ、もう6時過ぎか…ご飯どうしよ?」
キッチンの大きな冷蔵庫を開けて中身をチェックすると…案の定、ペットボトルの飲み物しか入っていない。
というか、この家には食料はおろか…皿や調理器具すら存在してなかった。
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