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君だけでいい



「え…なんで?なんで陽介になついてんの?」

「俺がずっと面倒みてたからに決まってんだろ」


俺を横目で睨んでから廊下を進む。
ロー…じゃなくクロは、その後をぴったりくっついて行ってしまった。


「ローラ!」


声を張って呼んでも、振り向きもしてくれない。


「…クロ?」


名前を変えて呼んでみると、ぴたっと歩みを止めて俺を振り返った。
…すぐに去ってしまったけれど。


「そ、そんな…」


――なんて安易な名前に…。


落胆して、やたら天井の高い廊下をとぼとぼ歩く。

そして居間に入ってすぐ、目に飛び込んできたのは…


「グランド…ピアノ?」


俺が使っていた愛機が、15畳はありそうな広い居間に、どーんと鎮座していた。

間接照明や真っ白いクロスと相まって、ピアノバーみたいな雰囲気を醸し出している。


「ちょっと陽介!ピアノがある!」


俺は興奮気味に、白い二人掛けのソファーに座っていた陽介を振り返った。


「あー。運んできたからそりゃあるだろ。9時までしか弾けねぇけど」

「あっ。消去法ってもしかして…」

「ペットとピアノ」


…許して欲しい。

こいつの我儘のせいで高そうな家に住む羽目になったと、一瞬でも恨んだ俺を。





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あきゅろす。
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