君だけでいい
◇
「え…なんで?なんで陽介になついてんの?」
「俺がずっと面倒みてたからに決まってんだろ」
俺を横目で睨んでから廊下を進む。
ロー…じゃなくクロは、その後をぴったりくっついて行ってしまった。
「ローラ!」
声を張って呼んでも、振り向きもしてくれない。
「…クロ?」
名前を変えて呼んでみると、ぴたっと歩みを止めて俺を振り返った。
…すぐに去ってしまったけれど。
「そ、そんな…」
――なんて安易な名前に…。
落胆して、やたら天井の高い廊下をとぼとぼ歩く。
そして居間に入ってすぐ、目に飛び込んできたのは…
「グランド…ピアノ?」
俺が使っていた愛機が、15畳はありそうな広い居間に、どーんと鎮座していた。
間接照明や真っ白いクロスと相まって、ピアノバーみたいな雰囲気を醸し出している。
「ちょっと陽介!ピアノがある!」
俺は興奮気味に、白い二人掛けのソファーに座っていた陽介を振り返った。
「あー。運んできたからそりゃあるだろ。9時までしか弾けねぇけど」
「あっ。消去法ってもしかして…」
「ペットとピアノ」
…許して欲しい。
こいつの我儘のせいで高そうな家に住む羽目になったと、一瞬でも恨んだ俺を。
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