君だけでいい
◇
臆病な俺の心の奥底まで見透かすような、蔑んだ目を向けられるのが怖い。
彼が好きになってくれた、強い自分でいられる自信が今は無い。
本当の自分をさらけ出して、嫌われるのが怖い。
暴力の世界に身を浸した彼の側にいることで、再び味わわされてしまうかもしれない、あの恐怖も…。
俺は横の座席にいるはずの陽介に目さえもくれず、目の縁に溜まった涙を溢さないように堪えながら、そんな事ばかりを考えていた。
「………」
その気配を察したのか、陽介は急におとなしくなった俺に話しかけることもなく、身じろぎひとつせずにただ黙って隣にいた。
存在感そのものを消してるかのようで、事実、その間俺は全く陽介のことを忘れ去っていた。
それからバスに乗って俺の通う高校の前で降り、再びタクシーに乗ると、ワンメーターで済むくらいの距離に、俺たちの新居になるらしい建物はあった。
そしてその建造物を見て、驚きのあまり鬱な気持ちも吹っ飛んだ俺の口から漏れた、第一声は…
「え?コレ!?まじで!?」
…だった。
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