君だけでいい
◇
「はあっ、はぁ…」
完全に物音が聞こえなくなって、振り返ると人の気配もなくなっていた。
細い私道を曲がって、壁にもたれて乱れた息を整える。
「はーヤバかった…」
「さすがだな、足も速い」
「!!」
すると突然、角から人影が現れて鋭い目と目が合った。
…一体どこから!?
と思うと次の瞬間、バチバチッ!と凄まじい音とともに左脇腹に痺れるような激痛が走る。
「あつっ!!スタン…ガン…?」
酷い熱さと痛みで、膝から崩れ落ちてしまった。
立ち上がれない…。
「悪ぃな、ハンデだ。葵の頭で仁志の片腕…油断ならねぇからな。くく…楽しみだなぁ」
「ち、ちが…」
そして動けなくなった俺は、誤解を解くこともできないまま乱暴に引きずられ、フルスモークの黒いバンに放り込まれてしまった。
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