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君だけでいい



「………」


二人きりになった途端、さっきの元気の良さが嘘のように、陽介は表情を無くした。


まあ、へんな笑い顔よりこっちのほうが作り物みたいで綺麗だからいいけど。


「…おまえ、俺と同い年なの?5年?」


「………」


…無反応。

それどころか、隅っこに移動して体育座りをしてしまった。


「身体小さいよな。何月生まれ?」


「………」


微動だにしない。
生きてるのか?


「ファイアーバスターやった事ある?」


「………」


なんとか共通の話題を見つけようと、流行りのゲームの話を持ち出しても無反応だった。


イライラした。
人がせっかく気を使って話しかけているのに、馬鹿にしてんのか?

…もういい。
これならピアノの練習した方がまだましだ。


「嫌なら喋んなくていいぞ。代わりに俺がいいもの聴かせてやるから、黙って見てろ」

「…え?」


おっ。初めて反応した。
もう一度だけ、話してみようか?


「なぁ陽介、どんな曲が好き?」

「…わかんない」


弱々しい返事。

改まってピアノを聴いたことがないんだろう。
でも喋ってくれた事で幾分俺の気分は良くなった。


「じゃ、とっておきのやつな」


これを弾けば誰もが歓喜し驚愕する、俺の持てる技術の最高難易度。

ありがたく聴くがいい!
ショパンの『幻想即興曲』!!!


俺は自信満々に、若干自分に酔いつつ華麗に?熱演した。


ジャーン……


ダンパーペダルで余韻を残し、格好つけてピアニストみたいに最後にふわっと溜めをつくって弾きあげた。




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あきゅろす。
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