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君だけでいい


「頼む!も…もうやめ…」

「仲間を呼べ」

「え……」

「応援だよ。…嬉しいだろ?」


ギリギリまで顔を近づけ、目と目を合わせて囁いたその顔には、うっすらと笑みが浮かんでいた。


その美しくも狂気に満ちた表情に命の危険すら感じた男は、ぎこちない指で携帯電話を探る。


恐怖に怯えた声で通話を始めたのを確認すると、陽介は壁にもたれて煙草をくわえ、青く澄み渡る空をぼんやりと見上げた。


ついこの間までの満ち足りた穏やかな日々が、今ではもう随分遠い昔の出来事のような気がする。


…マサキちゃん、俺はやっぱり…駄目みたいだ。


光の差していた場所を、暗い影が容赦なくじわじわと侵食していく。


「葵!調子こいてんじゃねぇぞゴルァ」

「殺されてーのかテメェ?」


お仲間のご到着だ。

しかし加勢に来たのは両手で数えられる程度、そしてそこに幹部の姿は無かった。



――チッ、強ぇ相手も呼べねぇ雑魚が!


「…殺してみろよ。来な」


そして再び繰り返される、意味のない殴り合い。


だけど今は一時だけでも、何もかも忘れていたい。


そうしてやがて色を無くした世界に、漆黒の闇がどろりと広がっていった。

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