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甘い甘い、

(甘い甘い、)
いいえ、天然です




彼、山本 武はいつだって皆のヒーローなのだ。


『、悔しい』


『んー、何か言ったかナマエ』


口笛を吹きながら、あたしの前を歩く彼はいつでもどこでもリーダー的存在になってしまう山本君。身長だって並の中学生なんかより高いし、スポーツ万能だし、何より誰とでも公平に接する態度が人気の理由。


『山本君って器用過ぎる』


『んな事ねェよ。勉強はからっきしだからな』


またまた、そんな事を言う彼は謙遜している訳ではなく本心で言っているのだから憎めない。


『あれは、やらないだけだと思う』


『そーかなァ…』


勉強だって、授業をちゃんと受けた時の抜き打ちテストで4位だった事をあたしは知っている。要は出来ないのではなくてやらないだけ。あたしみたいに抜き打ちテストがあると知っていながら沢田君と同じく最下位だったのとは出来が違う。


『高校行ったら絶対モテるよ。今にあたしの事なんか忘れちゃうぐらいにっ』


『んー…そりゃねェと思うけど』


こんな、何をやらせても万能な人が人気にならない訳がない。きっときっと、高校に行ったらファンクラブとか出来ちゃうんだ、絶対。それで、山本君もあたしなんかより全然可愛い子と付き合って、野球と私どっちが大切なのとか言われちゃうんだ、甘酸っぱいんだ。


『あたし聞いたもん。山本君格好良いってクラスの子が話してたの』


極めつけはこれだ。この前クラスの女の子が、あたしが山本君と付き合っている事を知っているというのに態々大きな声で話していた。もてる男の彼女の裏側は、こんな感じなんだと、山本君は分かっているのだろうか。


『ふうん…』


『ふうんって山本君ッ』


ところがどうだ、この山本君の関心の無さ。夕焼け空なんか見詰めちゃって、本当に興味なさそうだ。いや、でも夕焼け空を見詰める山本君がまた格好良い。そんな事を考えていると突然山本君があたしの方を向いて…


『だって俺、ナマエしか見てねェし』


『ぶっ』


その笑った表情は、そのきらきらと白い歯を見せて笑う表情は反則だ。否、言っている事が突然で、反則過ぎて思わず吹き出してしまった。大好きな、いつも飲んでいるパックの紅茶を飲んでなくて本当に良かったと思ったのは初めてだ。


『ははっ、吹き出すなよ』


『だ、だだだ、だって山本君がそんな恥ずかしい事普通に言うからっ』


あたし一人顔真っ赤になって、山本君はへらへらと笑っている。この、何とも言えない悔しさはきっときっと山本君と付き合っている限り無限ループだろう。悔しいのに嬉しくて恥ずかしくて、自分の言葉が震えている事なんか本能がお構い無しだ。


『だって、本当の事だしなァ』


『そ、そ、それが恥ずかしい事なの…っ』


心臓がばくばくして大変なのに更に追い打ちを仕掛けて来る彼は天然なキザだ。今きっと熱計ったら40度は超えてるだろうあたしは、本当に頭から火が出る勢い。


『ナマエの反応面白ェなー』


『あ、遊ばれてる…』


いつかいつか、彼を真っ赤にさせるのがあたしの目標なんだ。



















(大好きなのにちょっぴり悔しい)


お願いだから、惑わさないで



















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20101106めぐ
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あきゅろす。
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