奪ってみせて、王子様
(奪ってみせて、王子様)
恋したのは物語の王子様なんかじゃない
そう、飽くまでも例え話だったのに、彼と来たらそれはそれは真剣に悩むものだから。
『例えばね、誰かとあたしが崖から落ちそうになった時、アレクならどうする』
『……か、考えさせてくれ』
それはそれは、優しいアレクだからこその悩み。何気ない質問を聞いた途端に眉間に皺が寄るぐらいに悩み始めた。優しいアレクは大好き、だけどその優しさが時々妙にあたしの中に不満を生むもので、
『もうっ、そこは君を助けるって言う所だよ』
『いや、しかし…私は二人ともを…』
我が儘なのは分かってるんだけど、やっぱりあたしだって女の子なんだから。好きな人に言って欲しい事だってある。アレクはこの国の領主で、心優しい王子様。そんな彼に恋するあたしは、我が儘を言う事で彼の気を惹く事しか出来ない唯の一般人。
『アレクのそういう所好きだけどさ、女の子はたまに強引な男の子が好きなんだってば』
『好きでもない異性に強引にされても嬉しくはないだろう』
ついでにアレクについて挙げるとすれば、アレクはとんでもない程に鈍感。この流れは、いつあたしがアレクを好きか気付いても良い雰囲気だと言うのに、アレクはあたしの言葉に困ったような表情を見せる。
『…好きじゃなかったらこんな事言わないよ』
『え…』
困ってしまったアレクを更に困らせる言葉をぼそりと呟く。一国の領主があたしみたいな一般人と話す事だって、きっと他の国では御法度。それなのにあたしと来たらアレクの優しさに付け込んでいると言われても仕方がない程に我が儘で、自分勝手。アレクに気持ちを伝えてはいけない事を理解している筈なのに、心のどこかではこの気持ちが報われる事を願っている。
『な、何でもないよっ』
だけど、いけない。流石に駄目だと逃げるように言葉を吐く。この時、見逃してくれたら良かった。いつもみたいに、アレクの鈍感さがあたしを逃がしてくれるだろうと考えていた。なのに、それは本当に一瞬の出来事で…
『ア…アレク…』
『はっきり聞かせてくれないか』
どうして、どうして…
まさかちょっとの呟きにアレクがあたしの手首を掴んだまま離さなくなってしまうなんて。そのまま白くて分厚い壁に押し当てられてしまうなんて、思いもしなかった。いつもの心優しいアレクじゃない、いつもの鈍感な彼じゃない。目の前にいるのは一国を担う領主でもない…それ以前の、男としてのアレクだった。
『ちょ…アレク、痛いよ…』
痛いと言っても離してくれる気配はい。逃げられないだろうと頭で理解する。頭中では警笛が鳴っている。告げれば元には戻る事の出来なくなる関係…王子様に恋するだけのあたしじゃなくなる。アレクだって、話し相手であるあたしが恋心を抱いていただなんて知ったら、きっとあたしから離れてしまうのに、事実を知る前のアレクは痛いぐらいにあたしの腕を壁に押し付ける。
『君の口からはっきり聞くまで、離さない。』
『…っ、その顔反則…ッ』
事実を告げるまで、後少しも掛からないだろう。痛みが勝る訳じゃない。この手を、強引なアレクをあたしはずっと待ち望んでいたのだから。
『ナマエの気持ちを、聞かせてくれ』
だって女の子はたまに強引な男の子に惹かれてしまうものだから…
(壊れても良いとさえ思える)
強引にでも、奪って下さい
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100706めぐ
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