Wingless‥(連載中)
ろく
「………肺がヤられてるね…」
脈を計り終えると、老婆はカチャカチャと聴診器やらを片付けながら、診断結果を短く告げた。
「………お前さん、一人者だったね?」
「……はい」
医師の質問に簡潔に答えた。
「…………」
このなんとも言えない静けさが何故かとても重い。
ふぅ……
医師は、大きな溜め息を吐く。
「…うちで入院させたいところだがね、近くで内乱があった所為で生憎ベッドに空きが無いんだ」
「別に私は平気ですよ、家に帰ります」
「馬鹿言ってんじゃないよ。
そんな体で一人でいるなんて、また倒れちまうのが目に見えてるじゃないか」
厳しい口調で、否定されたじろいでしまった。
老婆は、有無を言わさず一瞥し、そのまま部屋を出て行った。
もう溜息しか出ない。散々だ。
──カタン‥‥。
音のする方向に目を向けた。
「……エドワード」
扉の直ぐ外に立つエドワードはあの不愉快な真っ直ぐな瞳で此方を見ていた。
「なんだね。何か用か?」
「食事を運んできた」
「要らないと言った筈だが……」
睨む様な眼差しのままで、エドワードは私の言葉を無視し、オートミールの乗った皿を荒々しくテーブルに置いた。
「此処に居たくないなら喰え。そしてさっさと治して家に帰れ」
言い捨て、直ぐ様踵を返すエドワードに声を掛けた。
「待ち賜え」
ピクリと体を微かに動かしはしたものの振り返りはしなかった。
「君は何故私を看病する?
別に君が無理して私の世話をする事も無いだろう。
嫌いなのだろう? 私が」
訊きたかった。彼の行動は不可解で私には理解出来なかったから。
「……ばっちゃんに頼まれたからだ。それに、病人のアンタを……」
「放って置く訳には行かないか?
偽善だな。君はもっと正直な人間なんだと思っていたが……。そう、傲慢な程に正直な、自分の感情のみで動くような」
「何が言いてぇ?」
不愉快な態度を示すエドワードは、河原で私を見付けたあの時のエドワードそのもので、私を苛つかせた。
どうしてこうも彼とは巧くいかないのか。否、どうして私はそんな風に彼を刺激するのか。と言った方が正しいようだ。
私は彼が嫌いなのだろうか?
考えに耽っていた私を現実へ帰したのはエドワードだった。
「兎に角、あんたは此処にいろ。看病はオレとアルが交代でする。
治ったら直ぐ出てって貰うから安心しろ」
早口で用件のみを伝える口調は、自制心の現れか。
言うだけ言って彼は部屋を出て行った。
.
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!