君を想う。(MM配信中)
6
あの日からアルは毎日病室を訪れた。
それがオレの精神安定剤となり、今までの様に暴れる様な事もなく、病院側もそんなオレに安心した様子だった。
然し今日はアルの到着が遅い。何時も遅くても十時には着いているのに。
昨日、何も言ってなかったし、別に変わった様子も見られなかった。
忙しくて来れないのか?
窓の外は春の気配を見せ、青空が深く、とても暖かそうだった。
様子を見に来た看護婦に頼み窓を開けて貰うと、冷たい空気が部屋を駆けた。ブルッとひとつ身震いした。
まだ、風は冷たいんだな。
「今日はアルフォンスくん遅いのね」
「え? ──あ、」
看護婦の言葉に注意をとられ、リハビリだと言われ渡された柔らかなボールを左手から落としてしまった。
何時もなら直ぐにアルが取ってくれる蛍光の黄緑色のボールは一度だけ小さく弾み、そのままころころと音もなく病室を出ていってしまった。
廊下の壁に跳ね返り、漸く止まったボールを通行人が拾う。
その人物を視た瞬間。
心臓がドクンと波打ったのを感じた。
相手は黙っている。
オレを視て、黙っている。
「────。」
「──あんた、誰?」
堪えられず声を掛けた。
だって、そいつがひどく懐かしいひとだと感じたから。
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