君を想う。(MM配信中)
12
「喉渇いた。飲み物」
後方に居るアルを上目遣いで見遣る。
ぱちくりさせるとアルの長い睫毛が主張される。
アルは美形だ。オレと違って優しげでどっちかって言ったら甘い雰囲気のアルは多分モテるだろうな。
「いきなりどうしたの?」
「さっきのお詫びに買ってきて。オレ、コーラな」
「さっき」って単語にアルは困ったみたいに苦笑いし、頷いた。
「解った。じゃあ、ここで待っててね」
一人でどこか行っちゃ駄目だよ。そう続けた。
ガキ扱いすんなよ。そう言い掛けたけど、実際勝手にどっかに行って記憶喪失になったオレは黙ってその言葉を飲み込んで、代わりにひらひらと手を振った。
実際、車椅子はオレのこの手じゃ一人では動かせないから、アルが居なきゃ何処にも行けないんだけどな。
駆け出したアルの背中を見送り、一人木陰に残されたオレは、そこで同じ様に散歩中の患者のゆったりとした歩みを眺めていた。
実際は別に喉なんて渇いて無かったけど、そうやって形を付けて詫びさせる事でオレはアルの言葉を無かった事にしたかった。
後でそれをネタに笑い合える様に。
アルが戻るまで暇を持て余し、あの金髪碧眼の男を思い出す。
急に吹いた突風に身を震わせ、膝に掛かっていたブランケットを掛け直したその手に、不意に影が掛かる。
「エドワード」
名を呼ばれ声の方向を仰ぎ見ると、見た事の無い男が立っていた。
見ず知らずの男なのに、不思議と警戒しないでいられたのは、眼が合うと直ぐに、膝を折りオレと視線の高さを合わせた、男の紳士的な態度からだろう。
「随分捜したよ。国境を越えた所に居るなんて想像もしていなかったからね。
ハボックに会ったんだろう?」
優しげな男の言葉に、以前現れた男の知り合いなのだと解った。
男は言葉を選び、ゆっくりと話し掛ける。
「あんた……誰?」
訊ねれば、男は哀しげに眸を揺らし、そして、静かに瞬きをした。
次に眼を開いた時にはもうその色は全く感じられず、柔らかな笑みを纏っていた。
「記憶を無くしたと言うのは本当らしいな。
私は、ロイ・マスタング。
アルフォンスに聞いていないかい?」
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