[携帯モード] [URL送信]

君を想う。(MM配信中)
10


 今日は天気が良いから、アルと共に病院の中庭を散歩する事にした。
 アルが押してくれる車椅子に乗って、ゆったりとした速度で流れる景色。撫ぜるように流れる風が木々を揺らし、葉擦れの音が心地良く耳に届いた。
 俺の手にはボールが握られていて。

「はぁ、このリハビリホントにまだ必要なのか〜?」

 もう大体指の感覚を取り戻していた俺はその何千回と繰り返したか解らない動作に飽きてきていた。

「駄目だよ。先生の言うことちゃんと聞かなきゃ。兄さんはいつも……」
「はいはい。わーたよ」

 これ以上続けさせるとうんざりするくらいの説教が待ってる。
 オレはそれを遮り溜息を吐いた。

「せめて自由に歩ければ良いんだけどなぁ」

 足を擦り眉を顰め不満を口にしたオレにアルは苦笑し。

「ウィンリィに来て貰えれば良いんだけどね。ラッシュバレーからは遠いし、この辺りは治安も良くないしね」
「ウィンリィ……って、リゼンブールの幼馴染みだっけ?」

 アルはそう訊ねたオレの言葉に少し寂し気に微笑し頷いた。

「うん。多分兄さんはウィンリィにしか自分の機械鎧をいじらせたくないと思ってたと思うよ。
兄さん素直じゃないから口には出さなかったけど」
「…そっか」

 自分の今は無き感情を他人に聞かされるのはなんとも気恥ずかしくて、オレは複雑な心境となった。
 それと同時にこんなに理解している弟が居る事への安堵感から、オレは静かに吐息した。

 息をしている、と実感する。
 アルが現れる前の不安感はすっかり無くなっていた。

 まだ記憶は取り戻せていないから、不安は無いと言ったら嘘になるけれど。
 あの頃の先の見えない息が詰まりそうな孤独感は全く無く、看護士達に怒鳴付け当たり散らす事もしなくなっていた。

 アルがくれるこの穏やかな気持ち。

 例え記憶が戻っていなくても、アルの存在がどれだけ今のオレを支え勇気付けてくれているか。

 アルは気付いているだろうか。



next‥→


[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!