おもい
4.
未だ戦いの最中だと言うのに、辺りは非現実的な程に静まり返っていた。
時折、西の空が神々しく光る。
最前線では、国家錬金術師が今も尚殲滅を続けている。
そう、此は戦争では無い。殲滅なのだ。一方的な絶対勢力。
どんなに相手が強靭な肉体と強固な精神を持ち、鍛錬された技を誇っていても。やはり全力で潰しに掛かった軍には到底勝ち得ないのだ。最早、もう。
戦う意味など有るのだろうか?
ズズンと腹部に響く地鳴りと共に空が一層明るくなった。
蒼白い錬成反応。濛々と上空に立ち上る砂煙。
幾何か、空に闇が戻り、忽ち赤に染まる。火が上がったのだ。
「聞こえるかね? また、人が死んだ」
酒に酔っている所為か、舌足らずで軽薄な口調が、逆に重くのし掛かる。
私は答えられず、只視線だけを彼に向けた。薄ら笑いを浮かべくくっと小さく笑い声を零す。
本当に彼は酔っている様だった。……一体、何に酔っているのか。
「人の生命[いのち]とは何とも呆気ないものだな」
彼の言葉は私に向けられたものでは無いのではないだろうか。ならば、彼は誰に向けて話しているのだろう。
………独り言の様で。
酒を煽り頭を垂らし、高らかに酒瓶を掲げ。
「乾杯」
そう彼は呟いた。
ウィスキーの残りをゆっくりと誰かに酌をするかの如き動作で地面に垂らす。
立ち込めるウィスキーの匂い。炎の赤に照らされ、血の様に光り地面に吸い込まれていく。
其れを眺める事しか出来なかった。
大地が血を吸っていく。
嗚呼。
どうかどうか……
─── 安らかに。
この身を切り裂く程に
身勝手な
罪深き願い ──
……end
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