おもい
3.
銃声の鳴り響く前線で貴方は赤い石を光らせた両手を高らかに天へと伸ばし指を弾く。
先程、── つい数時間前。暗闇に呑まれ空を眺めた力ない眸は何処へいったのか。
そう思わせる程、貴方は一心に前を見つめていた。
── 唯、前を。
その背後に援護する状(かたち)で銃を構えていた私は、殆んど無意識の中、銃口を彼の頭蓋骨目掛けていた。
自分の銃の腕には自信がある。
引き金を引けば弾は忽ち飛び出し、衝撃と共に黒髪を赤に染めるだろう。
そしたら貴方は何を思うだろう。生きたいと願うだろうか? 祈るだろうか?
それでは…‥、解放出来ない。
引き金から指の力を抜く。
銃口も、私の視線も遥か彼方を視ている。
もう視界には彼は入って来ない。
けたたましい銃声が鼓膜を揺さぶる。弾を銃へ籠め、引き金を引き、また弾を補充し撃つ。
それを繰り返す。
一発。命中。二発。命中。次。腕。外した。ごめんなさいね。せめて苦しまぬ様一撃で……。
銃の内部で起こる小さな爆発に弾き出された鉛の速度は目にも止まらぬ速さで、籠めた指が金具を押し切るのを感じた次の瞬間にはヒトが呆気なく倒れる。
殺らねば殺られる。それだけの為に私は心を無にした。
私はまだ死にたくない。
死にたくない……。
今夜は眠れそうにない。
昼間の銃の衝撃に因るビリビリとした鈍い手の痺れが取れないのだ。軽く片方の手で掌をマッサージしてみるがあまり効果は期待出来そうになかった。それでも、やらないよりはマシだろうと揉みほぐす。
夜更けにテントの隅で、遠くで銃声が鳴るのを聞いていた。
「おや、何をしてるんだね?」
聞き馴れた声が耳に届き、その主を確認すると直ぐ様立ち上がり敬礼した。
「マスタング少佐!」
「そんなに構えるな。どうだ、一緒に呑むかね?」
ククッと小さく咽を鳴らすと、アルコールの瓶をグッと煽り差し出す。
「遠慮させて頂きます」
「そうか」
彼は更に酒を煽る。
大分呑んでいるのか目の焦点が合っていない。
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