おもい
2.
士官学校を出て直ぐ、私は彼に出会った。
彼を知ってからの印象は決して良くなく私は軽蔑に近い念を抱いていた。
いい加減で女誑し。
顔を遇わせる度に馴れ馴れしく掛けられる軽薄な常套句。
私と貴方は此れからも相容れない関係だと思っていた。
然し其れは呆気なく翻される。
内乱中。マスタング少佐に課された指令。
軍の再三の警告に逆らい、敵対するイシュヴァール人の治療を続けた医師夫婦の身柄確保。
抵抗した場合、射殺許可も下りていた。
任務を終え、テントに戻って来たマスタング少佐の衣服には血糊がベッタリと付着しており他を寄せ付けない雰囲気を纏った彼は無言のままテントへと入って行った。
いつまでも戻って来ない彼を内心気に掛けは為るものの気の利いた言葉も見付からず。マスタング少佐が居るテントの前を通り掛けた時、中からの水音を聞き中を覗き込んだ。
どんよりと暗いテント内の人物の表情は確認出来なかった。
彼が私に気付いて居ない事を、水を張った盥で無心に手を洗って居る事で判る。
唯、響く水の音。
僅かな光を揺れる水面がキラキラと反射していた。
私は、見る見る鮮血を濃くする紅い水を眺める事しか出来なかった。
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