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*短編集*
□黄水仙
└ロイエド/微裏/誘い受
誕生花:黄水仙
    Narcissus Jonquilla
花言葉:愛に応えて
傾向 :ロイエド



「ねぇ、あんたさ。男とした事あるか?」

 スティック型のお菓子をぽりぽりとかじりながらオレは至極自然に問うた。今日の天気を訊くみたいに。
 驚いたのは問われた方。
 いきなりの突飛な質問に、先程まで書類にサインをしていた手を止め、身を固め此方を凝視し口をぱくぱくさせてる。
 その顔、笑えるんだけど。

「どう? 気持ちいい?」

 さして気にも止めてないよって伝えるみたいに。オレは言葉を続けた。

「オレ、したことねぇし。
……解んねぇんだ」

 そこで初めて、真っ直ぐに彼を見た。オレがしたいと思うたった一人。ロイ・マスタングを。
 立ち上がり、ゆっくりと一歩ずつ近付いた。
 頬に触れるとやっと動き出した大佐が、慌てた様子で手をオレの手に重ねた。

「どうしたんだね。鋼の」

 制止しようとする声は幾許かの厳しさを見せた。

「しようか? 大佐」

 口元に笑みを湛えたのは自然だっただろう。オレはこの瞬間を心待ちにしていた。
 毎晩、毎夜……願ってた。
 それを行動に移した今、大佐が嫌がっていない事を確信したオレの気持ち、解るだろうか?

「……なにを冗談」
「じゃねぇよ」

 あんたがこういう時どう言う風に切り返すか想像出来る。
 ずっと見てたから。

「オレが冗談であんたの事誘うと思ってんのか?」

 知ってるクセに。知らん顔して放って置くからこんな風になるんだよ。大佐。
 思いっきり顔を近付けて、啄むように触れるだけのキスをする。勢いを付け過ぎて、歯が当たった。
 それをきっかけに大佐が余裕を取り戻し、くすりと微笑し口唇を歪ませた。

「……、下手だな。鋼の」

 大人の余裕を見せ付けられて顔が高揚した。

「私を誘っているんだろう?
ホラ。そんなに稚拙では私を本気にはさせられないよ」

 挑戦的な台詞にまんまと乗せられて、オレはムキになってたんだと思う。
 再度その薄い口唇に口付けて。
 離しては、また近付いて、遠退き、再度重ねた。
 そうしているうちに自分の躰が熱くなっていくのが解った。
 何度目かのキスの際、大佐がリードするみたいに口唇割り、その誘いに舌を差し入れた。

「んっ‥…」

 遠慮がちに入ったオレの舌先を大佐は軽く吸い寄せ、もっとこっちだと誘導した。
 咥内は甘く、温かで背徳感を煽る。
 チロチロと動かして大佐の舌に自分を絡めるだけでオレは興奮し、大佐の黒髪を梳き首に腕を回した。
 ふと、大佐は口唇を離し、

「その体勢」
「……ぇ?」
「辛くないかね?」

 思えばオレは椅子に座る大佐の首に回した腕だけに体重を預け、後方に尻を突き出す、なんとも腰に悪い不安定な体勢でキスを貪っていたのだ。

「やれやれ。童貞はコレだから」
「……なっ!」

 図星を衝かれ、焦りから汗が噴き出した。
 ああ、そうだ。慣れた振りして強がって格好付けて見たけれどオレはこんな事した事なんて一度も無い。
 百戦錬磨のあんたとは違う。
 けど、もう我慢出来ねえんだよ。
 あんたの腕に抱かれたい。

「仕方無いな。これじゃあ、いつまで経っても行為が進まないじゃないか?」

 大佐の無駄の無い仕草に、気付いたらオレの躰は大佐の膝の上に横向に座らされていて、で、大佐の脇の下に片腕を挟まれるおまけ付き。
 これじゃあ自由に動けない。

「だが、偶にはこんな風に懸命に誘われるのもそそるもんだな。
ご褒美に男を教えてやろう」
「ぅ……へ?」

 いきなりの好戦的な態度にたじろいだのはオレ。
 望んでるのに、いざそうなると──。

「んッ……! は‥、ぁ」

 大佐から重ねられた口唇はさっきとは全く違う。
 熱く、息を詰めさせるくらい激しく、頭の芯をクラクラさせた。

「ぁ‥…、あ、息…っ、」

 口の微かな隙間からくぐもった声を漏らし訴えた。
 長いキスから漸く解放した大佐は余裕の笑みで、息を上げたオレを見下ろした。

「どうだね? まだ続きを?」

 勝敗は解ってる。オレの完璧な負け。
 良かったような、物足りないような。そんな気分で意気消沈するオレの髪を不意に大佐の手が撫でた。

「……これでも我慢してるんだ。早く帰りなさい」
「え?」

 きょとんとしてるオレに大佐は苦笑いして。その笑顔が優しくて驚いた。

「君が本当に心の準備が出来るまで待っているよ」

 漸く落ちたな。冗談みたいに零した言葉が嬉しくて。
 にやけてるかも知れない。

 ずっと前から落ちてるって。


 end‥‥

うわっロイside書きたくなった!!←
珍しく……うん、甘くなりました。
裏を期待したみなさまごめんなさい(笑)

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あきゅろす。
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