【朧月】
9
好きなんだ。やっぱりオレは大佐が──。
胸の高鳴りを抑えるも、オレは自分の気持ちを改めて確信した。
「──、出てってくんない?」
それが悔しくて。哀しくて──。
「オレ、もう出るから」
冷たく言い放つ言葉は、オレの心を守る為のもの。
これ以上、好きにならない様に。これ以上、傷つけられない様に。
「──……、今更恥ずかしがる事も無いだろう?」
オレの気持ちを判ってんのか、判ってないんだか、大佐は続けた。
「出て来なさい」
──‥! 何だよ、その命令口調。腹が立った。けど、その低い声色にオレは逆らえない。
俯き、薄い隔たりを開けると、大佐が全裸のオレを見遣る。何考えてんのか判んない、笑顔のポーカーフェイスで。
「いい子だ。鋼の」
「‥─バ、濡れるっ」
腕にすっぽりと包み、濡れた頭を胸に納められる。
「心配していたんだよ?」
甘い囁きに、身を固める。
あんな荒々しくオレを抱きながら、ふとそんな労りの言葉を掛けてくる大佐に、オレはいつも戸惑うのみだ──。
──‥‥胸がイタいんだよ。
どうしていいか、わかんないくらい。
「‥…私に逆らうな、鋼の」
口調は優しいのに、言葉は絶対的で。堪らなかった。
大佐がする啄む様なキスでさえ、オレの躰を熱くする。
逆らえないのか、逆らわないのか?
『大佐は何でオレを抱くの?』
そんな事……言える訳がない。
「鋼の、もう瞳が潤んでいるよ? そんなに私にシて欲しいのか‥‥?」
ぽたぽたと、シャワーの管から滴る水音。
「君は、淫乱だな」
「──‥ッ
……、」
「はが‥‥…ねの──?」
初めて見た。大佐のそんな驚いた顔。
──……、オレの頬を伝う涙は、無意識のモノで、何で泣いてんのか自分でも解んない。
止めようにも止まりそうにない。
「…‥、何でもない。ホントに……ッ…‥何でもないんだ」
啜り泣くオレの肩に両手を掛けたまま、大佐は何やら考え込む様だった。
きっと、面倒な事になったとか、考えてるんだと思う。
「──…?」
ぎこちない大佐の指が濡れた頬を拭い、ぶっきらぼうに頭を撫でた。
「─……大佐?」
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