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【朧月】


 好きなんだ。やっぱりオレは大佐が──。
 胸の高鳴りを抑えるも、オレは自分の気持ちを改めて確信した。

「──、出てってくんない?」

 それが悔しくて。哀しくて──。

「オレ、もう出るから」

 冷たく言い放つ言葉は、オレの心を守る為のもの。
 これ以上、好きにならない様に。これ以上、傷つけられない様に。

「──……、今更恥ずかしがる事も無いだろう?」

 オレの気持ちを判ってんのか、判ってないんだか、大佐は続けた。

「出て来なさい」

 ──‥! 何だよ、その命令口調。腹が立った。けど、その低い声色にオレは逆らえない。

 俯き、薄い隔たりを開けると、大佐が全裸のオレを見遣る。何考えてんのか判んない、笑顔のポーカーフェイスで。

「いい子だ。鋼の」
「‥─バ、濡れるっ」

 腕にすっぽりと包み、濡れた頭を胸に納められる。

「心配していたんだよ?」

 甘い囁きに、身を固める。
 あんな荒々しくオレを抱きながら、ふとそんな労りの言葉を掛けてくる大佐に、オレはいつも戸惑うのみだ──。
 ──‥‥胸がイタいんだよ。
 どうしていいか、わかんないくらい。

「‥…私に逆らうな、鋼の」

 口調は優しいのに、言葉は絶対的で。堪らなかった。
 大佐がする啄む様なキスでさえ、オレの躰を熱くする。
 逆らえないのか、逆らわないのか?

『大佐は何でオレを抱くの?』

 そんな事……言える訳がない。



「鋼の、もう瞳が潤んでいるよ? そんなに私にシて欲しいのか‥‥?」

 ぽたぽたと、シャワーの管から滴る水音。

「君は、淫乱だな」
「──‥ッ
……、」
「はが‥‥…ねの──?」

 初めて見た。大佐のそんな驚いた顔。
 ──……、オレの頬を伝う涙は、無意識のモノで、何で泣いてんのか自分でも解んない。
 止めようにも止まりそうにない。

「…‥、何でもない。ホントに……ッ…‥何でもないんだ」

 啜り泣くオレの肩に両手を掛けたまま、大佐は何やら考え込む様だった。
 きっと、面倒な事になったとか、考えてるんだと思う。

「──…?」

 ぎこちない大佐の指が濡れた頬を拭い、ぶっきらぼうに頭を撫でた。

「─……大佐?」


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あきゅろす。
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