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【朧月】


 柔らかな黒髪。
 繋がる女を通り越し、その瞳に映るオレ。
 感情の読み取れない黒い黒い瞳。
 冷たい瞳……


 オレの存在に気付いて、大佐は腰を女から離した。

「た…ぃさ?」

 オレに気付いていないのか、大佐の相手は甘え強請る様な声を出す。大佐は何事も無かった様に穏やかに応えた。

「もう時間だろう?」
「そんな…」
「埋め合わせは後日させて貰おう」

 優しげな言葉とは裏腹に有無を言わせない口振りで女の金髪を撫で額に口付ける。
 美辞麗句で以て相手を捩じ伏せる大佐。オレは正直嫌悪感を抱いた。

 女には判らないんだろうか? その言葉の裏が。
 大佐の言葉を鵜呑みにし嬉しそうに顔を綻ばせ、一度大佐の首に腕を回し抱きつくと、部屋を出て行った。

 しんとした部屋に大佐と二人きり。息苦しくてオレは肺に酸素を送る。部屋の冷たい空気が自分の体に取り込まれるのを感じた。


「覗きとは随分悪趣味だな、鋼の」
「……なっ!?」

 口を開いた大佐の言葉に驚いた。悪趣味? どっちが…
 反論しようと口を開いたけど、いつの間にか側に立つ大佐の威圧感に何も言えなくなった。

「普段全く興味の無い様に振舞って居るが、君も普通の少年と言う訳か」
「何言ってやがる。後から来て勝手におっ始めたのはソッチじゃねえかっ
人が覗き見してたみたいな言い方すんじゃねぇ」

 そう訴えたら大佐はプッと馬鹿にしたみたいに吹き出して……

 〜〜…こいつホントムカつくっ

 何でオレの方が罪悪感感じなきゃなんないんだよ。第一オレだって見たくて見たんじゃねえよ。
 心中で愚痴を溢すも、オレは益々俯いた。

 オレだって見たくて見たんじゃねえよ。

 見たく……なかった。


「──!」

 不意に大佐に抱き締められた。

「何しやが…っ!?」

 慌てて引き剥がそうとしたけれど、いきなり股間を鷲掴みにされ、躰が強張る。

「触れなくても判るくらい勃起させておいてどの口がそんな事を言うのかな?」

 耳元で囁く声に何も言えなかった。それは真実だったから。
 羞恥心で唇が震えた。
 何故か瞳に熱いものが集まる感覚を覚える。

「抜いてやろうか?」

 クスリと小さく笑う。
 固まったまま唇を咬む。どんな顔してそんな事言ってんだ?

「遠慮するな。口止料だ」



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あきゅろす。
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