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【朧月】
13

 漸く、この日になった。
 電話で話した後、大佐とは一度も連絡を取り合っていない。

 あんな危うい関係だったからこそ、大佐の告白は嬉しかった。でも、やはり司令部を目の前にして怖くなる。

 あやふやで、不確かで、オレ達の関係は………そう。空に浮かぶ朧月のような……。



「久し振り」

 連絡も無く現れたオレに酷く驚いている様だった。

「は…がねの」

 咳払い一つして、大佐はいつもの不貞不貞しい彼に戻った。

「いつ、南部に戻ったんだね?」

 戻った。その単語に違和感を感じた。オレの田舎は確かに南部だが司令部からは遠い。戻るってのはちょっと違う。


「おかえり」

 大佐の言葉。理解した。
 彼が俺に此処に帰ってきて欲しいと願っている事。それは旅の安寧なのか、帰る場所は自分だと言う主張からか、解らなかったけれど。

「ただいま」

 そう返した。


「大佐、返事……しに来てやったぜ」

 強気な言葉は不安を隠す手段。

「あぁ、聞かせて頂こう」

 サインしていた筆ペンをペン立てに差し入れ、大佐は俺を見据えた。
 この彼の目が好きだ。
 挑むような、大佐の目が。

「好きだよ」

 オレは何度もシュミレーションした言葉を口にした。
 正直なオレの気持ちを一度くらいは伝えなきゃ、言葉にしなきゃ伝わらないのは、オレも知ってるから。

「………」

 大佐はオレの言葉に絶句する。

「好きだ。ホントに、初めて逢ったあの日から………。好きだ。大佐」

 繰り返す言葉に、大佐は立ち上がる。
 素早くオレに歩み、肩を掴む。

「本気か?」
「あぁ、信じろよ」

 静かに。でも、大佐に絶対伝えたいたったひとつの言葉。
 人の気持ちなんて解らないから……。
 掴んだと勘違いしてしまいそうな他人の感情。
 それはまるで朧月夜。
 だから、伝えるんだ。
 言葉に乗せて。

 伝えたい。
 躰より、熱より早く。
 確信して欲しい。

 オレのこの揺るがぬ想い。


 アナタだけに送り続けよう。
 たったひとつのこの言葉。


 好きだよ







end




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