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【朧月】
12

「こんなのボクに解読させないでよ!」
「? 何が書いてあったんだ?」
「恥ずかしくてボクの口からは言えない!
兄さんが自分で見なよねっ!」

 アルは文献をオレの胸に押し付ける。

 ? 何を照れてんだ?
 アルの様子に小首を傾げ、アルから受け取った文献を受け取った。
 アルの字で大量のメモが挟まってる。丸で囲まれた文字が解読出来た言葉何だろう。
 えーと、資料室……、路地裏、自室…、仮眠室。

 なんだコレ?
 場所ばっかりだな。

 ん? コレ……?

 …………………。
 ンな……!!?

「アル……コレ……解読したよな?」
「当たり前でしょ!?」

 アルは無意味に大きな声を出した。
 そりゃそうだ。オレだって顔から火が吹きそうだった。

 その文献に隠されていたのは熱烈な愛の告白。

 大佐から……オレへの。

 オレは怒る事も忘れ、余りの事態に口をパクパクさせるだけで精一杯だった。

「……何してんのさ、兄さん」

 さっきまで一緒に動揺してたアルの声色が急に低くなる。

「早く電話しておいでよ」
「えっ、あ…? な……!」
「何言ってんのか解んないよ兄さん……」

 アル、お前何でそんな冷静なんだ!?

「駆け足!!」

 号令するみたいに声を張らせる。

「……!
ちょっと……行ってくる!」

 それに背を押され漸くオレは走り出した。

「全く。兄さんは世話が焼けるんだから」

 アルが訳された文献の内容。
 文献はラブレターだった。



『大人気ないが
年下の君に魅了されているのを君に知られるのが癪だった。

いつも、高ぶる感情を抑えられず君を乱暴に求める事しか出来なかった私を君は心底嫌っている事だろう。


一言だけ言う。

愛している』


 何て回りくどい事。
 いつも恥ずかしいセリフを平気で吐くクセに。そうやって自信満々の笑顔でオレを惑わしていたクセに。


「大佐?」

『何だね』

 いつもより言葉少なな大佐。
 要件は解っている筈だ。

「文献……」

 電話口から何かが落ちる音と共に『あちッ』と小さく発せられた声がした。

「大佐?」
『ぁ…いや、何でも無い』

 慌てた声がする。こんな大佐初めてみる。

「大佐?」

『…何だね?』

「サンキュー…」

『………、あぁ』

「返事は……、次会った時するよ」

『ん、……そうか』

「じゃ」

『鋼の!』

 受話器を置こうとした時、再度大佐の声がして受話器を耳に当て直した。

『愛しているよ。私は本気だ』

 大佐の声は真剣その物で。
 思わずときめいてしまった。

「大佐…」
『し…仕事があるので失礼するよ』

 ガチャッと音を立て電話は切れた。
 あ、もしかして照れてるのか?
 ふと、思った。
 大佐ってもしかして恋愛下手なんじゃないか?




 こうして、素直じゃない者同士の不器用な恋が始まった。



 次に会ったら、オレもキチンと伝えよう。
 好きだと。

 散々なアプローチだったけど、大佐がくれた勇気に免じて許してやるよ。

 電話ボックスから出たオレの足取りは軽く、弾んでいた。


 遠回りしたけれど、やっと辿り着いた。
 これから、どんな物語が始まるだろう?


 霞んで見えない想いに不安になる事も有るだろう。
 それでも確かに其処にあって、しっかりと輝く月みたいに。

 大佐を想い続ける。


 大佐も、そう思っていてくれてるよな?

 ずっと…‥‥





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あきゅろす。
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