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【朧月】



寒い……

自分の腕で
自らの凍える躰を包む












なぁ‥暖めて……


凍えて……死んじまう…‥




【朧月】




「おや、遅かったな」

 背中から声を掛けられた。
 振り向かなくても判ってる。

 ホラ……。やっぱりアンタだ。

「なんだね、その嫌そうな顔は……」
「…よく解ってんじゃん」

 いつもの様に最高に嫌そうな表情を作り即座に言い放つオレに、苦笑しつつ言葉を返す大佐。

「少しは愛想というモノも覚えたまえよ、鋼の」

 余裕そうに言葉を紡ぐ相手にとてつもなく腹が立つ。

「何の用だよ?」

 鬱陶し気に訊くと、

「まあ、そう急かす事もないだろう。どうだね、一緒に食事でも付き合いたまえ」

 そんな答えが返ってきた。

「あ? なんでヤローと仲良く茶なんて飲まなきゃなんないんだよ?
オレは忙しいんだ。呼び出した用件だけ言えよ」
「君が来るのが余りに遅いのでね、君と立ち話をしていると折角の昼休みが出来んのだよ」

 その言葉にチラリと壁の時計に目をやると、二時半を少し回ったところだった。

「大佐、今から昼休み?」
「ああ、そうだ」
「んじゃ、オレまた後で来るから…」

 そう言って踵を返したオレの生身の腕を、大佐の手が掴んだ。
 一瞬、心臓が止まるかと思った。大佐の指がオレの皮膚に食い込む感触。

「触んなっ!」

 思わず振り解くと、大佐が目を丸くしてオレを見ていた。
 声が出ない……。

 逃げる様にその場から走り出した。

 だけど、足音に気付き、首だけ振り返ると、大佐が追い掛けて来ていた。
 なんで追って来るんだよ!?

「付いて来るなっ!」

 そう叫んでみても大佐は見る見る近付いてきて、とうとう腕を掴まれ、足の動きを止めた。

「なんで追ってくんだよっ!?」

 声を荒げ、グルッと振り向くと、息すら乱れていない大佐が挑発するようにさらりと言った。

「君が逃げるからだろう?」
「──‥ンなっ…!」

 言葉を続けようとしたオレの視界には、一体何事かと興味深げにオレ達を見つめる司令部の面々。

「上司からの誘いは素直に受けるものだよ。鋼の。」

 にっこりと微笑む大佐。
 ……、分かったよ。行けば良いんだろ?

 人の気も知らないで……──

.

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