[携帯モード] [URL送信]

878.雨の向こう側で


 当たり前だろ? オレ、もうすぐ六歳だし……。
 そんな風に思いつつも、褒められて嬉しくなった。
 上機嫌で玉葱の皮を剥くと、男に手渡した。その出来映えに男のひとは、

「よし、上出来だ。
すぐ出来るから、もうソファーで休んで居なさい」

 ……。
 何で?

 ポンポンと大きな手が、頭を撫でる。

 何でこの人はオレに何もしなくていいってゆうの?

 おとなしく言われた通りに出来上がりを待っていた。


 肉を焼く音と、いい匂い。
 暖炉の火はオレの体を暖めてくれるし、美味しいご飯が食べられる。
 男のひとは、オレに労働を強要しないし……。
 そんな事を考えている間に、視界がだんだんボヤけていく。



「……ド……!
エ……ワード……」

 ん? オレを呼ぶのはダレ?
 ――……母さ……ん……?

「エドワード!」

 声の違和感に飛び起きると……そこには男のひとの呆れた顔。

「やっと起きたか。
ご飯にしよう。……食べれるかい?」

 その言葉にコクッと頷く。

「では、此方においで」

 招かれるままにテーブルにつく。ウインナーが入ったスープと、パン、真ん丸なラムのソテー。
 ぐううぅ……。
 ご馳走を前にまた、腹が鳴る。

「クククッ。さあ、遠慮なく召し上がれ」

 何がそんなに可笑しいのか、男のひとは笑いを堪えながら言った。

「頂きます」

 両手を顔の前で合わせると、まずスプーンを手に取り、スープを啜る。……旨い!

「お口に合うかね?」

 男に話掛けられたけど、こたえる暇もなく食事を口に運ぶ。

「エドワード、そんなにがっつかなくとも料理は逃げないよ?」

 そんなオレの姿に、困ったような顔をする。でも、その顔はなんか優しくて……。
 けど、やっぱり腹が減ってるオレは、ラムの塊と格闘する。
 ……。
 ……う〜!切れないっ!
 夢中でガチャガチャしていたら、大きな手が皿を取り上げた。

「貸してごらん」

 男はあっと言う間に塊を一口サイズに切ってくれた。

「あ、りがと……」

「どう致しまして」

 何を考えてるんだろう?
 オレを拾ってくれて、ご飯もくれる、……何も聞かない。どっちかと言うと放って置いてくれる……。

 なんか……暖かい。

[newpage]

[*前へ][次へ#]

9/30ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!