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878.雨の向こう側で


 なんで何もきかないんだろう?

 くろい髪の名前もわからない男のひと。オレを家に連れてきて、シャワーを使わせてくれて、あったかいココアをくれた。

 なんで何もきかない?
 なんで何もしないのかな?
 おとななのに……。

 あの人は、ただただ、絵をかく。

 オレはそれを、ただ、黙って見てる。

 オレはここに居ていいのかな?

 手の中のココアは、ぽかぽかあったかくて……、飲んだら体もぽかぽかした。

 そういえばここ何日、何も食べてないな。

 きっと、そんな事を考えたからだ。

 ぐううぅぅ〜

 オレのお腹が大きな音をたてて、その音に気付いた男のひとはこっちを見た。男のひとと目が合って……オレは俯く。顔が熱い……。

 クスクスと笑い声がして……。

「クク……、腹を空かしているなら言ってくれれば良いのに……」

 茹で蛸状態のオレを見て、きっと笑っているのだろう。

「……いや、すまない。今何か作ろう」

 まだ込み上げてくる笑いを堪え、肩を揺らしている事に対しての謝罪なのか……、それとも、飯を忘れた事への謝罪なのか…?
 兎に角、そう言った男のひとは立ち上がりキッチンへと向かうと、何かを刻みだした。

 暫く様子を見ていると、何とも手際が良くて母さんを思い出す。とても料理が上手で、優しかった母さん。

「何か……手伝う……」

 居心地の悪い様な、そんな気持ちになったオレは、近付いていき声を掛けた。
 そしたら、男のひとはきょとんとした顔をした。

「……」

 なんか言えよ。

「……いや、まだ手伝いをする歳ではないだろう。
包丁で手を切ったら大変だ」

 へ? オレの事、いくつだと思ってんだ?
 そんな疑問は感じたが、此処は引き下がれない。

「……手伝うよ、オレだって手伝いくらい出来るし」

「……ふむ……、働かざる者喰うべからずか?
それでは、玉葱の皮を剥いて貰おうか」

 剥き方はわかるかい? 玉葱を一玉手渡ししながら、男のひとはそう続け、オレは玉葱を受取りながらコクッと頷いて見せた。

「巧いな、君の母君は立派に教育していたのだな」

 ペリペリと玉葱の皮を剥いていると、感心した様に話し掛けてきた。


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あきゅろす。
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