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878.雨の向こう側で


 未だ勢いを弱めない雨が、音を立て窓ガラスを叩く。
 その様子をソファに座り、ぼんやりと見るともなく眺めていた。

 後方から、カチャっとドアが開かれる音が物憂気な空間を破り、ロイは振り返る。
 途端、思わず息を飲んだ。

 さらさらと光を放つ金糸。白い肌は艶っぽく、朱に染まる頬が映え、形の良い唇は血色が良く、まるで紅を引いた様だった。
 ロイのシャツを纏い、恥ずかしそうに裾を掴みモジモジしている彼は、金の瞳を控え目に伏せ、バスルームの扉の前で立ち尽くしていた。

「……エドワード、こちらへ来なさい」

 手招きしながら呼び掛けると、エドワードは、ビクッと体を強張らせ目線をこちらに向ける。
 エドワードに動く気配はない。
 仕方がないので、此方からエドワードの元へ歩み寄ると、手を伸ばした。

 私が触れる瞬間、エドワードはぎゅっと目を閉じ、シャツを掴む手の力を強めた。その手を掴むと一度キチンと伸ばしてから、丁寧にエドワードの体に合わせる様に袖を捲っていく。

「やはり私の物では大き過ぎたか」

 独り言の様に呟くと、もう片方の袖を捲る。

「寒くはないか?」

 エドワードが中途半端に填めたシャツの釦を、キチンと上まで填め衣服の乱れを正してやりながら問う。

「……だい……じょうぶ……」

 絞り出す様な声だったが、ずっと黙っていたエドワードの声を聴けただけで、私は何故か、ホッと様な、そんな不思議な感情を覚えた。



 暖炉に薪をくべると、エドワードが座っているソファに間をあけて腰を下ろす。

「エドワード……?」

 名を呼んでみると反応がなかった。

「エドワード?」

 もう一度呼ぶと、膝の上に置かれた指先が微かに動く。
 不思議に思い、俯いている顔を除き込むと、エドワードは寝息を立てて眠っている事に気付く。

 寝室から毛布を持ってきて、エドワードにそっと掛けてやる、と、

「――!?」

「すまない、起こしてしまったか?」

 目覚めた瞬間私の顔を写し、金に怯えた色を混ぜ私を見詰めたかと思うと、ふるふると首を振る。
 エドワードは体を起こし、行儀良く姿勢を整えた。

「……何か飲むかい?」

 またエドワードは首を振る。
 先程声を聞いていなければ、口が利けないのでは無いかと思ってしまうだろう。

「では、ココアにしようか」

 エドワードの拒否を構わず立ち上がりキッチンへと向かう。


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