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878.雨の向こう側で


 画材を買い足し店を出ると、ロイは唖然とした。
 雨脚は強くなり、風も強くなっていて、横殴りの雨粒がアスファルトを叩いていた。

 店であれよこれよと衝動買いしてしまい、気が付くとロイは両手に持ちきれない程の大荷物を抱えていた。

 どうしたもんか……。
 雨が止むまで雨宿りしているか。
 それとも紙袋が濡れる覚悟で帰るか……?

 うむ……、唸って右手を顎に添える。これはロイの考え事をする時の癖だ。

 ……ん?

 色取り取りの傘を差す人々が足早に行き交う雑踏に違和感を感じ、顔を上げそれに焦点を合わせる。

 なにかが……、建物の陰にひっそりと。人混みの合間を縫って、ちらちらと金色が見える。

 あれは?
 何故か、私はその金から視線を外せなかった。

 塊は
 コンパクトに
 何かに隠れるように……

 逃れるように?

 小さくゆらゆらと

 ……震えている


 あれは……子供……?


 そう思った瞬間、誘われるように歩き出す。


「どうしたんだい?」

 私は車道を横切り、その子に傘を差してやると、成る可く柔らかく話し掛けた。

 どこか、訳有りに見えたから。

 少年は少しだけ顔を上げ私を見遣ると、大きな金色の瞳を更に大きくした。
 まだ、4、5歳位か?

「……冷たくないか?」

 少年が何も言わないので、更に言葉を続ける。

 ふるふると猫の様に少年は首を振る。金の髪から雫が迸った。

 拒否されている気がしたが話し掛けた手前、置き去りには出来ず更に言葉を続けた。

「誰か……待っているのか?」

 また、少年は首を振る。
 埒が明かないな……。

「私の友人が軍警察で働いてるんだが、行くか?」

 今までより力強く、首を振る。

「私も暇ではない。
口を聞けないなら仕方ないだろう……?」

 溜め息交じりに漏すと、少年はもう一度、私を品定めするように上から下まで視線を這わせる。

「ん? 家に帰るかい? 送って行ってあげよう」

 その私の何気無い一言に、少年は酷く傷付いた顔をした。

「……うち……ない……」

 少年は、小さく蚊の鳴く様な声で……、は……?

「家が無い?」

「……ない……」



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あきゅろす。
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