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878.雨の向こう側で
20

「……ごめん。オレ少しでもロイの役に立ちたくて」

 其処まで言ってしまうとエドワードは口を閉ざし、目を伏せる。


「‥‥すまなかった」

 彼は純粋だった。
 その思いを仇にする事は出来ず、謝罪を述べた。

「今日は何を作っていたんだね?」

 浅く気付かれない様に深呼吸をし、気を落ち着かせ尋ねる。あの話は食事が済んでからにしよう。
 許されたのだと感じたのか、彼は急に顔を上げ、

「シチュー!!
……あ、オレ、それしか作れないから」

 恥ずかしそうに、申し訳なさそうに顔を真っ赤にさせる。
 黙ってしまった私に彼はまた俯く。

「ごめん。オレこんな事しか出来なくて‥‥」

 そんな事はない。違うんだよ。エドワード。

「食事にしようか?」

 彼ほど素直にはなれず。
 彼ほど純粋にはなれず。


 エドワードのシチューはとても旨かった。
 温かく体を包んだ。
 この胸を締め付ける。

 食事を済ませ、片付けを始めようとしたエドワードの名を呼び止めた。

「エドワード、大事な話があるんだ」

 刹那、本当に一瞬だけ、エドワードは表情を強張らせた。半立ちとなった腰を再度椅子に落ち着け、此方へと金の瞳を向けた。

「君の叔父さんと連絡が取れた」

 沈黙。

「今日、此処へ迎えに来るそうだ」

 沈黙。

 漸く口を開いたエドワード。

「そっ‥…か」

 一言。消え入りそうな声量で呟いた後。

「‥…ありがと」

 彼は礼を告げ。


 ──微笑んだ。

 自分の罪悪感を拭うには充分な程に、柔らかく。彼はまるでこうなる事を知っていたかの様だった。


「今まで迷惑掛けてごめん」


 浅はかな私はその笑顔に安心していた。
 これで面倒から解放されたという気持ちと、やはり只の少し反抗して家を飛び出した少年だったのだという一片の憶測の思い。
 やはり彼は背中を押して欲しかったのだという、願望からの安堵感。

 悩ませた全てからの解放。

 幼きエドワードの精一杯の気遣いだとも知らず、それから私は穏やかな一時を過ごした。

 エドワードの叔父が迎えに来るのは21時頃と言っていた。
 後一時間弱。

 もうすぐいつもの生活へと戻る。
 一人、何者にも縛られぬ悠々とした生活に。


 ──ピンポーン

 家のチャイムが鳴らされる。ビクリと身を跳ねさせ異常な反応をした少年に驚いた。

「エドワード……?」

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