878.雨の向こう側で
19
家路に着く足取りが酷く重い。まるで両足に鉛を付けているかの様だった。
エドワード‥‥?
君の闇は何処にある?
私は君が解らない……
歳の割に口数の少ない少年。それなのに、礼やら挨拶などはきちんと口にする。
其処まで思考を廻らせ首を振る。その様はまるで現実逃避。
正しい事しているのだという必死の己への慰め。
──良いのか?
このままで……?
家に着いたものの、私はその重い扉を開ける事を躊躇った。
中ではきっとエドワードが待っている。
……不安の色に揺らめくエドワードの表情が目に浮かぶ。儚く、霞んで浮かぶ。然し、確りと、瞼の裏まで焼き付いた。
どうか。苦しめないでくれ。エドワード。
ノブを掴む指に力を加えると、ドアは古く軋んだ音を発てその口を開けた。
途端……、フワリと私の鼻孔に芳しい香りが游ぐ。
どうやら、キッチンから漂ってくるらしい香りを追い誘われる様に足を動かす。
「おかえりなさい」
鍋をかき回す手を止め振り返った少年は気不味そうに俯く。
「何を作ってるんだね?」
自分では冷静である様に努めたが、それは呆気なく無駄な努力に終わった様だった。
エドワードは身を強張らせ。……恐らく、脅えている。
「……ロイにはダメだって言われたけど、オレ、どうしても何かしたい」
一生懸命に自分の気持ちを口にする。
「あ、オレ……置いて貰ってる身だし‥‥」
漸く紡いだ筈のエドワードの言葉は私の声で掻き消された。
「そんな事どうでも良い」
今思えば、憤りからの八つ当たりなのだろう。
彼の幾つもの血の筋を付けた手を視、辛くなる。
私の言葉にエドワードの大きな金眼が曇った。
「とにかく、此方に来なさい」
エドワードは脅えている。それは私にも見て取れて。
構わずエドワードを引っ張って行きリビングの椅子に座らせ、反対側、対面するように自分も腰を下ろした。
「話がある」
そう、切り出した。
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