878.雨の向こう側で
18
昼休み、私はヒューズの待つ資料室に向かっていた。
昼食は家へ戻りエドワードと摂る予定だったが、朝出かける前に用意してきたものと昨日の残りのシチューを食べるよう言って来たので大丈夫だろう。
古い趣きの扉を開けると、先に来ていたヒューズが私に気付き軽く手を上げ合図する。
「どうだった?」
「取り敢えずここ半年分の届け出だ」
苦笑いを浮かべ答えると、脇に置いてあった分厚い書類の束を差し出す。
どうやら今朝ヒューズが言いたかったのは、結果報告では無く、一緒に探せという提案だったらしい。
「凄い量だな」
「行方不明者ってのは結構いるもんだからな」
これは昼食はおあずけになりそうだな。と溜め息を洩らし固い表紙を開きパラパラと捲る。
写真が書類に貼付されているのがせめてもの救いか、確認作業は量に反して早いスピードで進められた。
「もうそろそろ昼休み終わるぞ?」
「‥‥ん? あぁ……」
ヒューズの言葉に腕時計を見る。後、15分強といったところ。
「私はギリギリまで調べているよ。付き合わせて悪いな」
「そうか? んじゃ……」
そう言ってそそくさと部屋から出て行こうとするヒューズの背中を慌てて引き止めた。
「付き合ってくれんのか?」
「だって、グレイシアの愛妻弁当食わなきゃいけないからなっ! 残すと心配するからよ〜」
……訊くんじゃなかった。
ハート乱舞でノロケだす薄情な友人を部屋から追い出すと、ひとつ呆れた吐息を吐き、無気力にページをゆっくりと捲っていった。
暫くそのページを捲るだけの単純作業を続けていると、正直飽きてきて、写真を一枚一枚確認するのも億劫になり、確認作業がおざなりになる。
「──!!」
……有った!!
過ぎたページを急いで遡り、確認する。
エドワード・エルリック‥‥。写真を確認すると確かにあの子だ。
しかし、その写真のエドワードの眼は死んでいる様に虚ろで正直驚いた。
『……うち……ない‥‥』
エドワードの言葉が脳裏を横切る。捜索願いの記述に特に不審な点は見当たらない。
肉親を亡くしたと言うのも真実なのだろう。届け出は伯父になっていた。
なんだ。やはり家はあるんじゃないか。
捜索願いを出しているところを見ると邪険にされていた訳でも無いだろう。
それなのに何故
私のこの晴れない感情は‥‥?
やっと面倒から解放されると言うのに‥‥。
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