878.雨の向こう側で
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「どうした?
帰ったんじゃなかったのか?」
「あぁ、ちょっと……な……」
先程仕事を一段落させ一時帰宅した筈の私に署内のカフェテリアに呼び出されヒューズは、直ぐ様駆け付け心配そうな様子で尋ねる。
持つべき物は友、そんな言葉も在るが……。本当は頼るべきではないのは充分承知している。しかし、もうどうしようもない。
これ以上は無理だ――!
それに素人の私がエドワードの素性を知る事など出来る筈もなく。
結局、ヒューズに泣き付いてしまった。
ある程度の事情を話すと、呆れたと言わんばかり返答が帰ってきた。
「……なんでそんな素性も判らないガキをわざわざ家に上げたんだ?」
……ごもっともな意見。
「どうしても見捨てて置けなかったんだ……」
語尾を濁らせた私にあから様な溜め息が返ってきた。
「昔からお前はそうだ。
口では厳しい事を言うクセに、変な所でお人好しで……」
「仕方ないだろう、何か深い事情があると思ったんだ」
「「……」」
暫く互いを観察するように見合う。
先に視線を外したのはヒューズの方だった。
「わかった……、俺に出来る事は協力してやる」
頭を掻きながらヒューズはもう一度溜め息を吐く。
「すまん」
「……まずは素性を調べないとな」
私が礼を告げるとヒューズは苦笑いを浮かべた。ヒューズはこういう奴だ。
私なんかよりお人好しで、困っている人間を放ってはおけないのだ。
だからこそヒューズの手を煩わせたくなかったのだが。
「で? 名前くらいわかるんだろ?」
その問いに、言い難そうに呟く。
「……エドワード」
「「……」」
「ファミリーネームは?」
「……わからん」
「ファミリーネームもわからないのか!?
じゃあ、他になんか手掛りになる事は?」
ヒューズの問いに只々首を振って答える。ヒューズはあまりの情報の無さに愕然とした。
「すまんな」
今度は謝罪の言葉を口にする。
「……これは大分骨が折れるぞ」
もう互いに苦笑いを浮かべるしかない。
「取り敢えず捜索願いからあたってみるか……。まあ、名前まで偽名だったらどうしようも無いが……」
ヒューズが何の気なしに溢した言葉。
いや、それは無いだろう。
口には出さなかったが、根拠も何も無いこの不確かな確信。
あの子は嘘は吐かない。
あの瞳には、光がある。
敢えて言うなら根拠と言えるのはそれだけだ。
嘘など吐く子ではない。
――あんな事があった後だが、確かに……私はそう思えるのだ。
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