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雨宿りしませんか?
はな、ひら、ひらり(カカサス・後編)
前編から読んで下さい。サスケ視点です。


   ****

・それは深くえぐる衝動・



俺はアンタに付け込んだ。
可哀相だと思えば良い。
でも、それでアンタが手に入るなら、

俺は、



「………いいよ」


短く降ってきた言葉に俺はほんの少し笑った。
優し過ぎるんだ、アンタは。
だから、俺みたいなヤツに付け込まれるんだぜ。
誰も、知らないけれど。
俺にはアンタが一番だったから。


「でも何をしたらいいの?」


そう言ったカカシに、
俺はキスをした。




あれから、幾日も経って定期検診の日がやって来た。

憂鬱な日。

アレは体中弄くり回されて気分が悪い。まるで、実験用のモルモットにでもなったかの様だ。

だから、俺はこの日が大嫌いだった。

もう、この体には何も残ってやしないのに。

後悔と悲しみ以外は。

それでも、カカシに連れられて街に出るのは少し嬉しくて。




俺は浮かれていたんだ。


「あーっ!!!」


馬鹿みたいにデカイ声が辺りに響く。
ナルトだった。
真っ直ぐに俺達目掛けて駆けて来る。


「サスケ!久しぶり!」
「……ん」
「元気だったか?
ずっと家にこもりっきりなんてつまんねぇんじゃねぇの?」
「……いや」
「俺も遊びに行こうと思ったんだけどさぁ、カカシ先生が家に入れてくんねぇんだってばよ」
「あのね、俺だけ悪者な訳?俺だって、上から色々言われてんのよ」
「えー…、怪しいってばよ」
「何なんなのよ、お前」
「独り占め…」
「ナルトぉっ!!!」


少し離れた距離から怒声が飛んで来た。
顔を上げると、サクラが明らかに怒りのオーラを纏って立っている。


「わ、さ、サクラちゃん」
「サクラちゃんじゃないわよ!
書庫の整理中にどっか行ったっきり帰って来ないと思えば!」
「ごめんなさい!だって、サスケがいたから」
「理由になるか!」


ガツンと酷い勢いでナルトの石頭に拳固が飛んだ。

「サスケくんゴメンね。みっともない所見せて」
「………」
「サクラちゃん、サスケ引いてるってば」
「何?」
「……何でも無いです」
「相変わらずだねぇ、サクラは」
「もー!サスケくんとカカシ先生が早く帰って来てくれないと任務行けないんですからねーっ!
毎日書庫整理なんて、黴臭くていやになっちゃいますよ!」
「ヤマトとサイは?」
「あの2人も色々忙しいみたいで…」
「まぁ、人手も足りないしねぇ」
「使い勝手も良いらしいですし」
「さらっと酷いなぁ」
「もう、ナルトと一日中2人きりとか嫌です」
「酷いってばよ!サクラちゃん!」


笑い合う3人を見ているうちに俺はなんだか、ここにいる意味が分からなくなっていた。

どんなに、会話に名前が出ても、

俺はいる様で、

いない気がする。

カカシですら、俺を忘れているんだろう。
俺より、確実に、ナルトやサクラといる方が、
楽しいに決まってる。


だったら何で、

優しくしたりするんだ。
それでも良いと、
思ったのは俺だけど。
でも、
やっぱり。
それじゃあ足りないんだ。
ちゃんと、

同じ様に、

必要として。

俺だけを見て欲しい。

馬鹿みたいだ、
こんなの…。
いつから、こんなに、

醜い、想いになった?



気が付いたら足が走り出していた。
もう、この場所にいるのが嫌で、
こんな醜い想いを抱いてるのも嫌で、


誰かが後ろで、俺を呼んだ気がしたのに、



振り向く事は無かった


    ****

・ひらり舞う想いは・


「どこ行くんだよ!」


後ろに手を引かれて、俺は足を止めざるを得なくなった。
息が上がって肩で呼吸をしている俺は、良く知った声がした方に振り向く事すら出来ない。
沢山走って、走って来た場所はすっかり人通りが無く、建物すら疎らになっていた。

静寂だけが辺りを埋め尽くしている。

だから分かる、
互いの呼吸を、聞いて

何だか泣きたい気持ちになった。


「アンタでも、
慌てたりするんだな…」
「当たり前でしょ…」


人間なんだから、とぎゅっと俺の手を握る力を強くした。

そんな小さな一つ一つが嬉しくて、
本当に馬鹿だと思う。

馬鹿みたいに、

好きなんだと。

だから、
もう駄目だとも思った。

偽りでも、
義務でも、
優しさでもない、

本当の気持ちが欲しいから。
それ以外はいらない。

一度強く瞼を閉じてから、俺は振り返った。


「カカシ」


真っ直ぐに、瞳を見つめれば、片方しか見えないそれは不安げに俺を見返して来た。


「俺はもう、アンタの世話にはならない」
「は?」
「上に頼んで、担当外して貰え」
「何?何の話…?」
「堪えられないんだよ」


そう言って手を振りほどけば、更に驚いた様に、目が見開かれた。


「アンタ、俺がどんな気持ちで恋人になりたいなんて言ったか知らないだろ?」
「それは…」
「アンタは優しいし、きっと俺を哀れんでくれるから。その気持ちに付け込んだんだ。
可哀相だと思っただろ?
一度全てを無くして、
また失くして、
罪を背負って、


でも、
俺は、

それでも良いから、
俺と居て欲しかった」
「………」
「だけど、さっき、
ナルト達と話してる時にハッキリ分かった」


手の平に力を込めて握った。
決心が鈍らぬ様に。
優しさに、
流されない様に。


「俺は、本当の事しかいらない。
アンタが、俺を本当に好きでなきゃ、

意味が無いんだ。
だから、もう、



さようならだ。

言葉には成らなかった。ただ、背を向ける事で分かって欲しい。踏み出す一歩一歩が重くて、苦しくて。
心が悲鳴を上げていた。
離れるのが辛い。

心の深くで、まだ側にいたいと願う浅ましさに、少し笑えた。
とりあえず、何処へ行く充てなど無いから、牢屋にでもぶち込んで貰えばいいかと、詰まらない事を考えていた俺の鼻を、柔らかい匂いが掠めた。

「ごめんね」


背後から暖かい体温が覆いかぶさる。
優しく抱きすくめられれば、体はたちまち言う事を聞かなくなった。


「…なんで…謝るんだよ」
「…うん。
沢山傷付いたでしょう?沢山、
辛かったでしょ?

だから、ごめん」
「意味、分かんねぇ…」


さらりと風が吹いて、木々を揺らすと何処からか花びらが舞って辺りに散らばった。

「…謝ったって、
許さない」
「うん…そうだね」
「……」


真っ白な花霞の中で、俺はただ背中の体温だけを感じていたくて目をつむる。

アンタは、
俺を見てくれる?


俺だけを、

愛してくれますか?


「……俺、我が儘なんだ」
「うん」
「…欲張りだし」
「うん…」
「だから、全部欲しくなるぜ」
「うん」
「……それでもいいのか?」
「………いいよ」


回された腕の力が強くなれば、自分が溶けて無くなってしまうんじゃないかと思った。


「元々、一人だもの。
他の人にあげる所なんてないよ。
それに、
俺も大切に思ってるから。
多分それは、お前と同じ気持ちでしょう?」


ぽつぽつと落ちる言葉は心地良く耳に染み込んで、思わず振り返った俺に優しく笑ってくれた。
なのに俺は腕一つ、指先一つだって動かせない。喜びと驚きが過ぎて、体が全部動くのを止めてしまったみたいだ。

そんな俺の頬を優しく手の平で包んで、また笑う。


「泣き虫なんだね」
「アンタのせいだ…」


自分でも気が付かない内に、涙が流れていた。
暖かい雫は、俺の頬から手を伝ってカカシの袖を濡らす。そうして幾つも幾つも球体になっては、落ちていった。


「大丈夫だよ、

もう、
泣かなくったっていいんだ」


にっこりと暖かい笑顔につられて、俺も笑う。
笑えばまた涙が眦から落ちた。
それを見てカカシは安心したのか、手を俺の頬から離す。


「帰ろうか」


俺はただ小さく頷く。
また柔らかい風が体を通り抜ければ、さやさやと木々がなり、花びらが舞った。

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