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なるとこばなし。
金木犀
甘い、あまい匂いが鼻をくすぐった。

見上げれば、そこにはオレンジ色の小さい花が木に沢山咲いている。


この花の名前を俺は知らない。
調べたりすれば良かったんだけどさ。

そういうのはまどろっこしくてキライだ。


昔、沢山の木や花の名前は校庭とかの木に架かっていたプレートで覚えた。
それか、イルカ先生に教えて貰ったり。


花屋で盗み見たり。


だけどこの花には何にも書いてなかった。

こんなにキレイで、良い匂いなのに、何で名前が無いんだろう。

もしかして、オレとおんなじで好かれて無いのかな?と勝手に思ったりした。

秋の近付いて寒い街中に、取り残されて。

なんて。

風が吹くとぱらぱらと花が落ちて匂いが強くなる。



「ナルト」


名前を呼ばれて振り向けば、サスケが立っていた。


「どうしたってばよ?何かあった?」
「いや、別に。
ただ、通りかかったらお前が立ってただけだ」


そう言ってちょっと照れ臭そうにしていた。

もしかしたら、俺を探してくれてたら嬉しい。


またざわりと風が抜ける。


「…金木犀か」
「きんもくせい?」
「何だ知らないのか?
植物の名前だけがお前の取り柄だったのにな」
「う…うるさいってばよ!」


きんもくせい。


何だかキラキラした名前だと思った。

その名前に負けない位お日様を浴びて金色に花は揺れる。

そんな名前があったんだな。

よく考えればこんなに綺麗で良い匂いなのに、みんながキライな訳ないじゃないか。

ちょっとがっかりだな…。


「何だかお前にそっくりだな。この花」


びっくりした。
今違うと思ったのに。

見れば隣でサスケがまじまじときんもくせいを眺めている。


「なんで…?」
「金色な所だろ、
小さい所だろ、
なんか甘ったるい所だろ…」
「ほとんど悪口じゃん…」
「それに……」
「それに?」


サスケはそれきり口を閉ざしてしまう。

「それに」なんだろう。


「良い匂いだな…」
「うん」


サスケ甘い物キライじゃなかったっけ?


きんもくせいを見るサスケの目は何だか悲しそうで、また昔の事でも思い出してるんだろうかと心配になった。


楽しい思い出も、

嬉しい思い出も、

全部全部悲しい思い出になってしまってるんだろうな。


そんな悲しむサスケが嫌で、俺はサスケの手をそっと取って繋いだ。

いつもは嫌がるのに、何故かぎゅっと握り返された手を俺はまた握り返す。

そうやってしばらく2人で、きんもくせいの下で立ち尽くしていた。


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