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なるとこばなし。
Orange sunshineA
・続きモノです。
・トビウオちゃんからの3636リクです。
・@からお願いします。


   ****


2.わたしをみつけて(サスケ)



いつだって

俺はオマケで

褒められるのは
感心を持たれるのは
記憶に残るのは
愛されるのは


兄さんの方で


誰か、


   ****


あれから、一週間が経ち研修期間が終わった。
俺の教える係のヤツは最悪だったが、最後に笑って

「ちょっと淋しいってばよ」

と、言った。
その言葉は何だか俺の胸に刺さって、取れないままだ。
それでも、職場は同じ訳だし、帰りだって結局アイツが俺を送る。

夏休みに入ってもそれは変わらないままだった。

「おい、ウスラトンカチ!」


俺は注文を取って帰って来たナルトを怒鳴った。なのにアイツときたら、きょとんとした顔でこちらを見ている。


「お前!また注文間違えたろ!」
「ああ、ゴメンってばよ」

悪びれた様子も無く、笑う。
ナルトは必ず毎日一回、注文を間違えて取ってくる。
その度に俺が作り直さければならないから、いい加減うんざりしていた。しかし、何度言っても謝って終わり。

いつかクビになるぞ…。


「で?間違った料理は?」

またコレだ。
こいつは間違った注文の料理を自分で食べる。
最近はそれが狙いでわざと間違えてる気がしてならない。


「全く」


かたりと皿が差し出されると、たちまち満面の笑みが広がる。
今日はグラタンとドリアを間違えた。
少し冷えたグラタンを、大切そうに受け取る。


「ありがと」


こんな料理を大切にする意味が分からない。
食べ物に困ってるみたいな…


「まさかお前、家が物凄い貧乏なのか?」
「え?全然、普通だってばよ」


違うのか…じゃあ何で。

「サスケ」
「なんだ?」
「もうすぐ休憩だろ、
一緒に食おうぜ」


口からはため息しか出なかった。
    ****


事務所の机に向かい合って、グラタンを一緒につつくってのはかなり異様だ。
しかも男同士だと余計に。

それでもナルトは嬉しそうに食べていて、決められた通りに作ったとはいえ俺が作ったのだから、なんだかくすぐったい気持ちになった。

まるで自分が褒められてる気がして。


「グラタン好きなのか?」
「まぁ、普通に好きだってばよ?」
「その割には旨そうに食ってるな」
「…あぁ、それは…」


と、言ったきり口を閉ざしてしまう。
不信がる俺を一度見たナルトは、難しい顔をしてからコップのジュースを一気に煽って意を決した様に口を開いた。


「あのさ、俺…っ」
「?」


ナルトがいきなり身を乗り出した時だった。

がちゃりと事務所の扉が開かれる。


「サスケくん、いる?」
「何ですか、店長」
「君にお客が来てるんだけど」
「俺に?」
「どういう事だってばよ!?」


一瞬苦笑いをした店長は、良いからと俺を店内へ連れていった。
一時より大分空いた店内の窓側、そこにいたのは良く知った顔。


「よー」
「っ…カカシ!アンタなんでここに!」
「カカシ"先生"ね。
様子見だよ。一応、生徒を働きに出した身としては」


目がにっこり笑ったのを見て、俺は一人で短く舌打ちした。

コイツは俺の学校の担任で、ここのバイトを紹介してくれた人間だ。
本来なら校則で禁止されているのを、あれこれと他の教師、果ては学園長までもを説得してくれた恩人でもある。
まぁ、学業を疎かにしないのが条件だったが。

ただちょっといけ好かない。

飄々として、人の心なんか簡単に見透かしてるカンジが腹立つ。


「まぁ…頑張ってる様で安心したよ」
「ふん、当たり前だろ」


こんな事、よっぽどの馬鹿じゃない限り誰でも出来る。
苛立ちを隠し切れずにため息をついた時だった。

「コイツ誰だってばよ」


いつの間にか俺の隣にちゃっかり並んで、カカシを指差していたのはナルトだった。
何か納得がいかないとばかりに難しい顔をしている。


「お前っ!何でこんな所にいるんだよ!」
「…ちょっと気になって」
「何でお前が気にするんだ」
「いいだろ別に」
「良くない!」


ブスッとしたナルトの頭を叩くと、ますますブスくれた。
なんなんだよ!
そんな側からくすくすと笑う声がした。
目をやれば、カカシが可笑しそうにニヤニヤしている。


「……何だよ」
「いや、仲良しが出来て良かったなぁと」
「んなっ!」
「そーだってばよ。だから、サスケは大丈夫だってばよ」


とっとと帰れといわんばかりのナルトの態度に、俺は開いた口が塞がらなかった。
コイツは初対面のヤツにこんな態度とったりしない。
むしろ人当たりが良すぎる位で…。
訳が解らなくて、戸惑う俺はナルトを見遣ると視線がぶつかった。

真っ青な瞳は何か言いたげに揺らぐ。


「どうし…」
「サスケくん」


俺の言葉を店長が遮った。場の空気にそぐわず、柔らかに入って来て俺に向かって話かける。


「今日はもう上がっていいよ」
「え?」
「そろそろ時間でしょう?」
「そういえば…」
「じゃ、俺が送ってこうかな?」


カカシがのんびりと言った。
どうせ"先生"が送ってくれんならまだやって帰りたいと言おうとした時、いきなりナルトに腕を強く引っ張られる。


「俺が送ってくから大丈夫ですっ!」


そのまま有無を言わさずに引きずられる様に、事務所まで連れて行かれた。


「なんだよ!」
「………」


俺が聞いても何も答えずにナルトは自分のロッカーを開いていた。
しばらく立ち尽くしていると、ちらりと俺を見て来る。その視線は相変わらず物言いたげで。結局、お互い無言で服を着替え外に出た。

一体何なんだよ。

お前は、俺の何なんだよ。
聞きたい事は山程あったのに。

駐輪場でからからとタイヤが回る音がして、振り返ると難しい顔をしたナルトが自転車を押して来た。


「………今日は、
歩いて帰ろ」


酷く真剣な眼差しに俺はただ頷く事しか出来なかった。

ゆっくり、同じ歩幅で歩く。
時々通る自動車のヘッドライトが眩しくて、目が眩んだ。

降りる沈黙を破ったのはナルトだった。


「サスケは何でバイト始めたの?
あんな立派な私立に行く位なら別にバイトしなくても平気だろ?」
「………」


適当に答えれば良かったのだろう。
だけど、俺は嘘を付いたりするのが嫌いだった。
それに、なにより、コイツがそれを許さない目をしている。
本当の事だけが欲しいと、
そう、言っていた。


「俺は、高校を卒業したら一人で暮らしたいんだ。学費も出来たら一人で何とかしたい」
「何で?」
「……俺には、兄がいるんだ」


それはずっと俺が追い付きたいと願っていた人。でも、追い付いても、追い付いても、誰も俺を認めたりは、しない。

誰も自分なんて見てくれないのだと気が付いた。
それは、親も同じで。

それに堪えられなくなって、わざわざ家から離れた寮のある学校にした。
小さい事かも知れない、
でも、

自分だけで、自分しか知らない人と、生きてみたかった。"イタチさんの弟"じゃない自分になりたかった。


「それには金がいるんだよ。だから、社会勉強っていう名目でバイトする事にした」
「……そうか」


洗いざらい嘔いてしまって俺は楽になった気がした。
きっとナルトは呆れたかも知れない、そんな事で、と思ったろう。


「呆れただろ」
「そんな事無いってばよ!」


いきなり大声を出されて、俺は唖然とした。
そんな俺を見たナルトは慌てて、口をぱくぱくさせる。


「あ、ゴメン!いきなり怒鳴って…」
「いや…」
「………」


また沈黙。
熱帯夜の空気を帯びた風が吹いて、ふと夏なのだと気が付いた。
今年の夏休みは、きっとこのまま遊びもせずに終わる。それでも、良い気がした。
それ位に、今が楽しいと思えた。
もしかしたら、コイツのお陰かも知れない。
いつだって、つまらなそうだと俺に笑顔をくれた。
それだけで簡単に俺も笑って。
もしかしたら、
初めてコイツは俺をみつけてくれたのかも知れない。
兄さんのオマケじゃない俺を。
そんな自分が可笑しくて、少し笑った。
不意に人気の無くなった所で、急にナルトが足を止める。
俺は数歩足を進めてからそれに気が付いた。

振り返ると、真っ直ぐ俺を見ている。
一台通り過ぎた車のライトにナルトの髪がキラキラオレンジに光った。


「どうしたんだよ?」

「サスケ、俺、変なんだ」

ぎゅっと胸の辺りを握る。
体調でも悪いのかと、俺は訝しんで一歩戻ろうとした。
その足は言葉に遮られる。


「あんなに、サスケの先生に変な態度とったり、
むきになったり、

お前の作った物が食べたくて、

俺と一緒に居て欲しくて、

俺を見て欲しくて、

馬鹿みたいに、
お前に笑って欲しくて、


どうしよう

俺、

サスケが好きなんだ」


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