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なるとこばなし。
seek(サスケ視点)
いつからだったか、視線を感じた。


誰かに見られる事なんて慣れっこだったが、それはいつもとは違う、濁った視線だ。

同情でもなく、
哀れみでもなく、

濁って澱んだ視線。


最初は勘違いだと思った。でも、そいつは街で俺を見掛けると家までずっと付いて来る。
何をしてくる訳じゃないから、放っておいた。

きっと興味本位だろう。

そう勝手に決め付けた。

だけど毎日、
きっちり、
ひたひたとそれは、俺の後をついて来ていた。




気が付いてから、一週間が経った時だ。任務終わりに、ナルトが一緒に帰ろうと誘うから俺は何の気無しに承諾した。
あいつは馬鹿みたいにはしゃいだり笑ったり。
空の雲見て
「あれ何か熊ににてねぇ?」
とか穏やかな事を言うもんだから、何だか気持ちが和らいだ。
ここ最近は帰り道は嫌な気分だったから、誰かと帰る安心感みたいなものを感じた。


でも、その時だった。



首の辺りに何かが刺さったんじゃないかと言うくらいの痛い視線を感じた。振り返っても誰もいない。
でも、カンジでいつもと同じヤツだって分かった。
同じヤツなのに、いつものとは違う。
攻撃的な視線。

俺は出来るだけ驚いてるのをナルトに察されないようにした。


「じゃあな!」
「……ん…、あ、ああ…」
「ぼーっとしてんなってばよ!」
「………うるせぇ」
「なんだとー!人が心配してやってんのに!」
「お前は自分の心配だけしてりゃあ良いんだよ、ウスラトンカチが」
「むきーーっ!馬鹿にすんなってばよっ!」


フンっとそっぽを向いて歩いて行ってしまう。
その後ろ姿を、

呼び止めたくなった。


でも、理由が無いから、
喉まで出かかった声を無理矢理体に押し戻した。それ位、本能が恐怖を訴えている。
でも、理性が邪魔して。
はぁと短く溜め息を付いて、俺は家へ歩きだした。
帰り道、
やっぱり視線は痛いまま、ずっと俺の後をついてくる。

少し足を早めると同じ様に付いて来た。

遅くすると、
また遅く。

ぴったりと
同じ速度で

早く、
遅く。

何度か振り返ったが、姿は無くて。気配と視線だけがしつこく俺に付き纏う。

もう気持ち悪くて、俺は走った。

視線の先に家が見えて俺は一瞬安心したんだ。


でも、それが悪かった。

首筋に一撃を感じて、

そのまま、
目の前は真っ暗になる。


   ****


ぼんやりと意識が浮上して俺は目を覚ました。

見た事の無い場所で、辺りは薄暗い。
俺はご丁寧にベッドに寝かされていた。でも、体はロープで縛られていて身動きが取りづらい。キチンと縄抜け出来ない様に縛ってあるので、連れて来た犯人が忍であるのが分かった。


「ちっ」


何でこんな事に。
俺が何したって言うんだ。
せめて体を起こそうと、壁に寄り掛かろうとした時だった。


「あんまり暴れないで貰えるかな」


全く聞き覚えの無い声が落ちて来た。
声の方を見遣ると、見覚えの無い男が、にやにやしている。
ただ、視線がずっとつけて来ていたアイツだと気付かせた。


「お前…、人の事付け回した揚句にこんな事して何がしてぇんだよ」
「何が、か…」


そう呟いたヤツはいきなりクナイを構えて俺に振り降ろす。

寸での所で俺は避けた。
でも、そのまま頭を掴まれて壁に押さえ付けられる。


「……痛っ!」
「良かった、こんな簡単に出して貰えるなんてね。お陰で苦労しなくてすんだ」
「何の…話だ…」
「写輪眼だよ」
「な…に?」
「君のその眼が欲しいんだ」
「そんな事出来る訳…」


いや、出来てる。現に、あののらくらした上忍は片目に写輪眼を潜ませているのだから。


「大丈夫、俺は医療忍術も学んで来たから傷は残らないよ。なんだったら、新しい眼も探して来てあげるし」
「いるかよ…!
そんなもん!

この眼は俺の眼だ!
お前になんてやるかよ!」


足掻こうと必死に体を動かした。
そうすると、ヤツは溜め息をついて、俺の頭を掴んでいた手に少し力を入れる。


「……なっ!」


体中に痺れの様な物を感じて、一気に力が抜ける。


「しばらく動けないよ。
忍術で痺れる様にしたから」


ズルズルと体が落ちる。首から上は痺れていない。俺が意識を手放せば写輪眼は消える。だから、あえて頭部には術をかけなかったんだろう。


「さ、見付かる前にさっさとしないとね」


笑いながら、液体の入った瓶を俺に翳した。


「ここに、入れて後で俺に移植するんだ」


そう言って俺の顔に手を当て、指から微量のチャクラを流す。
ぎゅっと瞼を閉じても、無理矢理こじ開けられた。
もう駄目だ。
体も言う事を聞かない。
この眼が無いと、俺の復讐は意味を成さないのに。
アイツに…イタチに、
勝てないのに!

止めろ!止めろ!
止めろっ!

止めろ!


……………助けて!


「兄さん……っ!」
「何言ってるんだよ、
君の兄は…」


言葉の途中でヤツが俺の視界から消えた。
その後大きな物音が部屋中に響く。


何が何だかさっぱり分からない。
現状を把握しようと、自由になる頭を使って壁づたいに体を起こした。
やっと起きた体で視線を上げるのと同時にアイツの悲鳴が聞こえる。


「あ…お前は…、何で…!」
「うるせぇ!!!
お前こそサスケに何しようとしたんだってばよ!」


そこには、男に馬乗りになって叫ぶナルトの姿があった。
そのままナルトは拳を振り上げて、男を殴る。

殴る。

殴る。


しばらく呆けて見ていた俺は、男がピクリともしなくなったのに気付いてようやく声を上げた。


「止めろナルト…!」


だけどまた拳は振り下ろされる。
床に血が飛び散った。


「止めろって言ってるだろう!」


もう一度、落ちる拳。
ナルトの手が赤い。
手が切れてるんだ。


「ナルトっっ!!!」


力いっぱい叫んだ。

それに、ナルトは動きを止めた。
良かった。


「もう…良いから…、
俺は…大丈夫だ」

そう言うとナルトは恐る恐る、俺を振り返る。
物凄く、悲しそうな顔で。

「……サスケ、俺っ」

やっと目が合った。
その瞬間ナルトの目からぼたぼたと涙が零れる。
駆け寄ってやりたかったけど、緊張の糸が解けて俺は意識を手放した。



   ****


痛い。

手がとにかく痛い。


重たい瞼を開くと、目の前に金色が広がった。


「起きた…!
大丈夫?痛いとことかねぇ?」
「手が痛い」
「手?」


目を遣ると、ナルトが俺の手を握っていた。
その手には幾回にも巻かれた包帯。


「………お前…」
「ん?」
「いや…。ここは何処だ?」
「病院」
「あれからどうなった?」

ナルト曰く、
俺がさらわれた時点で、一応、分身を使ってカカシに連絡したらしい。待てなくて、先に突っ込んだだけだから後からちゃんと警務部隊が来てアイツは逮捕されたそうだ。
俺は一先ず病院送りにされたが、怪我も無く、術も解いたから意識が戻れば帰宅して良いとの事らしい。


「ところでお前、何で俺が誘拐されたのに気付いたんだよ」
「あ〜…だって、帰り際サスケ様子おかしかっただろ。
だから、ちょっと心配になって、後追いかけたんだってばよ。
そしたら、サスケん家の前でアイツがサスケ担いでどっか行こうとしてたんだよ」
「………」
「後はさっき言った通りだってばよ」
「……そうか…」


もしあの時ナルトが来なかったら、俺はどうなっていたんだろう。
考えるだけて、ぞっとした。
少なくともこの金色は見ることは出来なかったはずだ。


「なぁ…、サスケ」
「なんだよ」
「もしさ、またサスケがピンチになったらさ、
俺絶対助けに行くから。

だから、そん時は俺の名前を呼んで」


繋いだ手に力が込められる。


「お前が呼んでくれるなら、俺はいつだって、何処へだって、走っていくから」


強く強く笑う。
不安も、悲しみも何もかもが吹き飛ぶ様な笑顔に、俺は泣きたい気持ちになった。


「俺の名前、呼んでくれよ」


ぎゅっと繋がれた手に通い合う温もりは、恐怖で凍えていた心すら柔らかくなる。


「お前に助けられるなんて、もうゴメンだ」
「うわっ!嫌なヤツ!
こーなったら意地でも助けに行ってやるってばよ!」
「ふん、せいぜい悪あがきするんだな」


だってお前は呼ばなくたって来てくれるから、

来るなって言っても、絶対に助けに来るから。


それが分かってるだけで、俺には充分なんだ。

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あきゅろす。
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