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なるとこばなし。
願い、ねがい。(二部)
俺は走っていた。

真っ暗な森の中をただひたすらに。

早くしないと、終わってしまう。
今日という日が終わってしまう…。



ざわめく木々を抜けると、一気に視界が開けた。そこに小高い丘がある。
里からも遠く、近くに明かりになるものも無いその場所には満天の星空が広がっていた。


俺はあれからずっと、

この日に
願っている。



「きみにあいたい」



―…今日は7月7日。



「間に合った…」


俺は丘のてっぺんに立つ大きな木に寄り掛かった。呼吸を調えて、一つ息を吐き出す。
昼間とは違う、少し冷たい風が頬を掠めて気持ちが良い。
落ち着いた所で、空を見上げると相変わらず沢山の星がキラキラと瞬いていた。
その中の特に輝いている三つの星。
そしてその間に割って入る様に沢山の星の群がある。

夏の大三角形と、天の川だ。


俺はポケットから短冊を取り出した。

願い事はもう書いてある。
毎年同じ事を書いて、だけど叶わないそれを、俺はまた書いた。

青いその短冊を折れない様に気を付けながら胸に押し当てて、強く願う。

サスケに会いたい


どうしようも無い位に会いたい。
会いたい、会いたい、
会いたいんだ。


そこへ強い風が吹いた、木を揺すり、葉を鳴らし

俺の手には、

少し暖かい温もりがあった。
形で人間の手の平だと気が付いて、俺は驚いた。

「……………っ!!!」
「静かにしろ」


懐かしい声がする。
ずっと聞きたかった、

いとしい声。

思わず振り返ろうとした俺を手の平が止めた。


「振り返るな」
「……」


その声に少し悲しみが混じっている。
きっと、振り返ったら、お前は居なくなっちまうんだな。
俺は手を強く握り返して、俯いた。


「…分かったってばよ」


どうやら、木の幹の反対側にいる様で背中から振動が少し伝わる。


「………星、綺麗だな…」
「…ああ」


しばらく繋がない間にすっかりお互いの手は大きくなっていたけれど、繋いだ感触には変わり無くて、なんだか安心する。あんまり高くない体温に、綺麗な形の爪をなぞった。
せめて手の平だけでも全てを知りたくて、
沢山触っておきたくて。
ふいに、向こうの手も同じ様に俺の手を探り出した。
爪や指の間接を、ゆっくりゆっくりなぞられる。

嬉しくて嬉しくて、
少し涙が零れた。


ずっとずっと、そうして2人で星を見ていた。

顔を合わせる事もなく、交わす言葉すら疎らで、

でも、確かに
俺達は繋がっていた。


段々と空が動いて、いつの間にか空が白みかけていた。

別れが、迫っている。
そう、思った。

俺の涙の代わりに空で星が墜ちた。



「行かないでくれよ」
「駄目だ」
「側にいて」
「駄目だ」
「……どうしてだよ」
「まだ終わってないからだ」


目の前に影が落ちる。

やっと、
顔が見れた。

いつか出会った時より、少し髪が伸びた気がする。
真っ黒い目が少し、不安定に揺らいでいた。


「やっと会えた」
「………」


堪らずに、抱きしめたくなって伸ばした両腕を捕まれて俺は戸惑った。


「会ってない」
「……え?」


そう言って、顔を近付けて来た。
ふわっと唇に、柔らかい感触を覚える。

優しいキスに、また泣きそうになったけれど間近にある黒い目が、


朱く、赤く、紅く。


「…すまない」
「………あ…」
「今日の事は忘れろ」


回る模様に、
俺の意識が遠退いて行く。
消さないで、

この記憶を、


大切な思い出を

忘れたくないのに。



「……………サスケ」



   ****




目が覚めた。

いつの間にか、俺は寝てしまっていた様だ。
すっかり朝日が登って、森では鳥が鳴いている。

星に願い事する為に来たのになぁ…。
最近任務立て込んでたし、疲れてたのかもな〜。
背伸びをして、また叶わなかった願に溜め息をついた。

ふと足元を見ると、
俺が願い事を書いた短冊が落ちていた。
拾い上げて見つめる。


「何だろ、これ」


俺の願い事の横に、小さな文字が書いてあった。
"俺も会いたい"


「え……」


いたずらだ。
きっと、誰かのいたずらに決まってる。


だけど、
なんで、


胸が痛いんだろう。
涙が溢れるのは何でだろう。

大切な何かを忘れている気がしたけれど、


失くした言葉は
忘れた記憶は

痛みを残すばかりだった。



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