幸せな銀土
【近藤勲の談話】
「近藤さんって、俺の話は全然聞かないよな」
久しぶりに二人で飲もうってトシを誘ったんだ。前まではノリノリでついてきたのに、『いいけど……』ってなんかよそよそしいんだよ、最近。
でも愛想のいいトシなんてトシじゃないと思ってるから、俺。気にしないで飲み屋に行ったわけよ。えっ、竜宮って飲み屋。感じのいい婆さんがやっててさ、結構上手い酒とか料理とか出すよ。あれ? 知ってんの?まあいいや。
見廻りの後に直行しようって言ったのに、アイツ聞かないの。帰って着替える、風呂も入りたいって。俺は早く飲みたかったからさ、じゃあ先に店行ってついでに席取っとくよ、ってことになって、一人で始めてたの。
トシが来たの、それから二時間後だよ? どんだけ風呂長いの。髪の毛サラッサラさせちゃってさあ。別に捕り物があったとか、返り血浴びたとかじゃないんだぜ? いいじゃん飲みの後で。着流しもなんかパリッとしてんの。アイツそういうの気にしないタイプだと思うんだけど。
こっちは散々待たされたもんだからさぁ、もう少し酔っ払ってたの。しょうがないじゃん、二時間も待ったんだもん。そりゃセーブしてたよ? けど二時間だよ二時間。
トシがいない間は女将さんが話し相手になってくれてさ。なんか女将さんも好きな人がいて、ずーっと待ってたんだって。んで、今は幸せなんだって。いいなーって話になって、お妙さんのこととか話したわけよ。どんなに綺麗な人かってこととか、美しさの中にも凛とした強さを秘めてることとか、例えるなら一輪の百合のようなこととか……え、しつこい? ヒドくね?
俺は愛のハンターとしてお妙さんを求め続けるんだって言ったら、女将さん笑ってたよ。いい笑顔なんだよそれが。幸せになると女の人ってこんなに綺麗に笑うんだなぁって、お妙さんがあんなふうに笑ってくれたらなぁって思うじゃん。イヤ俺は思うの!
そこへやっとトシが来て、待たせたなとかなんとか言うんだけど全然悪いと思ってないよアレ。後から来たからしょうがないじゃん、今の話の流れに乗ってもらうことになるじゃん。まあそこはいつも冷たいよ、トシは。いい加減に目ェ覚ませとかそりゃあ犯罪の域にドップリだとか、まるで応援する気ないし。挙げ句の果てに『仕事しろよホント、困るんだよ』とか言い出すし。飲みの席くらいハジけてもいいじゃんトシの意地悪。
そんで、しばらくしたらトシも回ってきたみたいで。ずっと黙ってたと思ったらいきなり『俺の話は全然聞かない』だって。
聞くよ、どんどん話せよって言ったらさぁ。
「万事屋に逢う暇がない」
「せっかく明日非番だから今日は早く会えると思ったのに」
「明後日の朝礼までには帰るけど余計な連絡してくんな」
「なんでアンタは毎日毎日惚れた女に付きまとってンのに俺は万事屋に逢えないんだ」
「万事屋に逢いたい」
「毎日逢いたい」
「一緒に住めたらいいのに」
「あいつだって我慢してるはずだ」
「なんで俺はアンタにつき合ってんだ、早くお開きにしろ」
「銀時が待ってるのに」
「ゴリラはゴリラ同士ウホウホしてればいいんじゃねえの」
「もうやだ帰りたい、万事屋行きたい」
そんで泣き始めたんだよ!
ビックリしたよ、マジで!
ぎんときー、逢いたいーってそればっか。俺邪魔しちゃったってこと? ごめんって謝って、早く万事屋に行ってやれよって言ったよ。遅いけど。そしたら『こんな顔じゃ銀時が心配するから今行けない』って。なんなの。どうしちゃったのこの子。どうすればいいの俺。
【山崎退の談話】
「あ、オイ山崎。メモ取れ」
そりゃあ立場上、副長の覚書作ることはよくありますよ?
でも考えてくださいよ。街中で、道端で、副長はケータイで話し中。電話に出たときは『煙草買ってこい』って追い払ったくせに。かなり時間掛けて戻ったらまだ話し中で、顔見るなり『メモ取れ』。極秘じゃないのはわかりますけど、少しは弁えたらどうですかって思うでしょう。イヤ思ってくださいよソコは。
そんで一体何事かと思ったら、
「んー、カレーの気分だな。甘口じゃねーぞ。辛口にしろ、マヨが引き立つのは辛口だから。マヨはあるだろうな? は? 足りるかそんなんで。じゃ、マヨな。オイ山崎、マヨ!」
「それと、なんだ。肉って何の肉だ。また鶏かよ。たまには牛使えってんだ。おー。量は? は!? どんだけ食うんだ……まあしょうがねえな。3キロな? オイ山崎ッ、牛肉3キロだぼんやりすんな!」
「あとは? じゃがいも? 人参、玉ねぎな? オイやーまーざーきーッ! 書いたのか!? シャキッとしやがれ!今のは三袋ずつだ! ……ん? ボサーッとしてるから。そう」
「え、これなんだって、知るか! 見える訳じゃ……へ? これあんだー? なんだそれ。行けばわかる? これあんだーじゃない? ちょ、山崎に変わる」
副長それコリアンダーです、多分。いいです変わりたくありません。もう書きましたコリアンダーって。がらがらまっさら、それも違います。ガラムマサラです。アンタが甘口は嫌だとか我が儘言うから、あんたの分だけ辛口にしてくれるんですきっと。
つまり、今日の晩飯は万事屋でカレーだと。それはいいですよ? 完全に私用ですよね? そして電話を切ったあなたは次に言う、「お前が買ってこい」と。
アンタ前に、監察だからって余計な観察するのは如何なものかって言ってたじゃないですか、と俺は言いたい!
あのときは副長が妙な誤解をしたわけですけど、仮にアレがホントで、俺が下衆な報告つーかチクリをしたとして、副長は『聞かなかったことにする』とか言ってましたよね。今回はまさに他人の嗜好をぐ・う・ぜ・ん! 知っちゃった訳ですけど、俺は聞かなかったことにすればいいんですか。つか、隠そうとする振りくらいしてくださいよ。どうなってんの。
ほら来たよ。
「メモったか? お前買ってこい。俺の部屋に置いとけ」
どういうことですかこれ!?
俺はどうしたらいいんですか!?
【沖田総悟の談話】
迷惑ってわけでもありやせんがね。目障りですぜ、ありゃ。こないだ手に入れた呪術、試してみてもいいですかィ、答えは……え、ダメですか。チェッ、つまんねーの。
俺としては恩恵にも与かってるんでさァ。アノヤロー、休憩と称して二時間くらい帰って来ねーこともちょくちょくあるんで。こっちは安心して昼寝ができるってもんでさァ。でも、互いにサボったあと合流するときのヤローはいただけませんや。頬染めやがってウキウキしてんでィ、オエェェェェ。
何かいいコトあったんですかって知らん顔で聞いてやると、『別に』って最初は言うくせに、もっと突っ込んで聞けオーラがバリバリ出てんでさァ。親切に聞いてやる義理はねえんで、放ったらかしますけど。放ったらかしてんのに、いよいよ我慢できなくなるとヤロー、頼みもしねえのに旦那のコトしゃべり出して止まらねえ。
あの銀髪綺麗で羨ましいとか俺も天パになったらあいつの憂鬱さがわかるだろうにとか、でもあの髪は好きだからストレートになんかなって欲しくない、銀色も銀色のままでいて欲しいとか、甘味が好きならたくさん食べさせてやりたいけど体が心配だからダメだって言う、そのときの旦那のカナシソウな顔に心が痛む、とかなんとか……寝言は寝て言えって話でさァ。あ? その言葉そっくりバットで打ち返す? いや俺ァ銀髪天パでもねーし甘味は好きですが医者に止められてねーし、旦那限定でしょコレは。
「ふーん……要するに君たちは、銀さんにヤキモチ妬いてるってことで、ファイナルアンサー?」
「そうじゃなくて!」
「ちゃんと聞いてくださいよぉ、マジ困ってるんですって」
「嫉妬する要因がありやせんぜ。ただウザいだけで」
「とにかく原因は「おめー「アンタ「旦那」だから、なんとかしろください」
「えー、なんとかって言われても。まずさぁ、ゴリラは俺の十四郎のプライベートに干渉しないでくんない? 仕事の後に飲みに付き合わせるってパワハラだろ。解放してやれよぶっ殺すぞ」
「ジミーはケチケチすんな。メモるくらいいいだろ十四郎大変なんだから。あいつがウチ来るときくらい好きなモン食べさせてやりたいの! 上司のプライベートくらい協力してやれっての」
「総一郎くん。キミはいつになったらアイツ虐めんのやめるの。いいじゃん少しくらい、聞いてやれよ? 可愛いモンじゃん、そっかー、この天パ気に入ってんのか。むふ、かっわいー」
「あ、ちなみにゴリラ、二時間待たせたって言うけどアレは平気。一時間くらい俺と電話で喋ってたから。おめーが空気読まないってめっちゃ怒ってたぜ」
「あとジミー。気が利かねえだろ、十四郎の部屋に置いたらアイツがウチまで運ばなきゃなんねえだろ。次からはウチまで持ってこい」
「総一郎くんはアレだ。十四郎が喜んでたよ、俺のこと目一杯話して聞いてくれんのはオメーだけだって。ちょっとムカつくからあんま近寄らないで、あいつに」
「総悟、バズーカ持ってるよな」
「もちろんでさァ」
「痕跡は俺が消しとくんで、やっちゃってください」
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