なんの不満があるってんだ。 定春サイズならともかく、普通の犬ならどってことねーだろ。 と言ったら、銀時はあー、とかうー、とか言い淀んだ挙句、やっと口を開いた。 「おめーをそんな、勿体ねえ使い方したくねっつーか。元真選組の副長が、落ちぶれたもんだなって言われたくねえっつーか」 「……は?」 「時勢が変わったとはいえさ。土方十四郎が人に使われてしょっぱい仕事してるって、思われたくねえ」 「ヒジカタ。そいつ張り倒してイイと思うヨ」 「俺もそう思う」 俺と神楽は揃ってヤツの脳天に踵落としを決めてやった。 「立つアルよこのマダオがァァア!? そんなんで万事屋名乗れると思ってェェェエ!?」 「テメェが主じゃねえのかこの天パァァア!? テメェの城をテメェで貶めてどうすんじゃゴラァァア!?」 「痛いイタイ! ちょ、二人がかりはやめて! お前ら自分の力を考えろ、ちょっとコレ目玉飛び出してねえ、俺!?」 あとは二人で話し合えと神楽は言い残し、定春を連れて仕事に行った。止める暇もなかった。 「オイオイ、俺が神楽と何年一緒にやってきたと思ってんの……あいつ俺より強えーぞ」 銀時はモサモサと頭を掻きながら起き上がる。 「新八に電話するわ。手が空いてるといいけど」 「待て。じゃあ俺が引越しに回る」 「どっちも変わんねーよ。万事屋の仕事だろ」 「テメェは、どういうつもりで、俺を」 本当に『嫁』のつもりだったのか。 恋人だったときは対等な関係ではなかったか。 お前がすることを、俺はできないと思うのか。 「あー……そうじゃねえんだ。悪ィ」 銀時は銀色の睫毛を伏せた。 キレイだ、いつ見ても。 「刀を捨てなくていいって、そう言われたのに……お前みてーな腕があんのに」 「年柄年中刀振り回してろってか。それじゃ真選組と変わりねえだろ」 「剣のいらない生活を、お前がするってことにさ。俺が慣れないんだよ」 「俺はな。政府でもなく道場でもなく、お前のところに来たんだぞ」 銀時の気持ちはわかる。 本音は俺も最初、違和感がないではなかった。 でも慣れた。それは、 「テメェと暮らしたいからだ。お前の生活の中に、俺も居たいから」 「…….うん」 「『銀ひじ』じゃねえのかよ、ココの屋号は。だったら俺にも仕事させろ」 「……うん」 「グダグダ抜かすなら実家に帰るぞ」 「……はは、それはイヤだな」 「テメ、もう屯所はねえとか思ってんだろ。俺の実家は近藤さんのトコだったり武州だったり、たくさんあんだからな」 「うん。行かないで」 「わかったらオラ。どっちがどっちに行くんだ」 「帰ってきて。ここに」 不意に抱きしめられた。 暖かい体温と、引き締まった腕や胸の感触に安心する。 俺の居場所はここだよ。 伝家の宝刀「実家に帰らせてもらいます」は相当効いたようだ。銀時はなかなか離れようとしなかった。 「帰ってくるっつーの。俺の旦那を誰だと思ってンだ」 「うん」 「あっ、俺が犬行くわ。すぐ終わんだろ? そのあと電話の練習するわ」 「ふふ、可愛いだろうな。犬の散歩する十四郎」 「バーカ。行くぞ」 「おう」 「で、僕は要らないんですね! せっかく姉上から逃げてきたのに、電話番の仕事すらねーのかよ!?」 《土方十四郎の業務日誌》 ■月□日 ・引越し手伝い(荷物の梱包) ・ストーカー退治(ストーカー瀕死) ・犬の散歩(大型犬四頭、躾悪し) 「テメェら俺にケチ付ける前にマトモにメモ取りやがれェェェ!?」 「あれ、十四郎また犬の散歩失敗したの。お仕置きかなこりゃ」 「ややや、やめろォォォ!? あんっ……」 |