違う。屯所だ。 屯所もよくこんなかんじに縁側とか廊下が吹っ飛んでた。 何度直したことか。特に俺の部屋。 総悟と神楽は距離置いて向き合ってた。得物は、バズーカと番傘だ。 「オイ、なにやってんだ!?」 「ウォーミングアップでさァ。他人の道場のこたぁほっとけよ土方のアホ」 「そうネ。ヒジカタはスッ込んでればいいネ」 「総悟はどうでもいいが、テメーはウチの一員だろう。他所様に迷惑かけてンの見つけたら黙っちゃいられねえ」 「ハーイそゆこと。おかーさんの言うことは聞きましょうね」 「俺、男なんだけど。つかこのボケどっかで聞いたことあんだけど」 総悟と神楽が会話のために一旦手を止めた隙に、道場の連中――元隊士なわけだが――が慣れた手つきでその辺を片付け始めた。 銀時は焦って神楽の襟首を掴み、早々に逃走を図っている。が、失礼ってもんだろ。道場主に詫びくらい言え。つか俺たちの目的はそもそも、道場主の新八がどうしてるか見ることだったろうが。 だが、その新八がすぐにこっちに向かって走ってきた。すごい形相で。 「銀さんんんん! 土方さんんんんん! 早く逃げてェェェ!」 「は? どういう」 「悪いぱっつぁん! 早く飯食いに来いよ!?」 「なに言ってんだテメーは。おい新八、壊して悪かっ、」 「口先だけなら頭下げるのはタダですものね。本当に困ります」 お妙が見事な営業用スマイルで出てきた。新八は口をぱくぱくさせて、結局閉じた。銀時は顔面蒼白、総悟はもういないし神楽は我関せずって顔だ。 「誠意見せんかい、あァ?」 「すいまっせんしたァァァ!」 俺が何か言うより先に、銀時はその場に土下座した。神楽はその隙に逃げ出した。総悟が消えた方に走ってったから、場所を移して続きを戦うんだろう。 「信女さんはいつも予めドーナッツや、佐々木さんから預かったって言って、エリートなお品も持ってきてくれるのよ」 「すいまっせんんんん!」 「銀さんにそこまで期待してないけど」 「ありがとうごぜーますぅぅぅ!」 「そもそも壊さないでくれればいいのよ。信女さんも、壊してくれて構わないって言うわけじゃないの」 「ごもっともですぅぅぅ! よく言っときますぅぅう!」 「銀さんももう新ちゃんの雇用主じゃないんだからケジメを持って欲しいの」 「ほんっと、すいまっせんんんん!」 「でも無い袖は振れないでしょう?」 「その通りですぅぅぅ!」 「じゃあ、あるヤツが振れやゴラ」 「え? 俺?」 どういうわけか、土下座してる銀時にはニコニコ話しかけていた女は、その横で突っ立ってた俺をひと睨みした。 (げっ……!) 昔、山崎がいきなり悲鳴をあげるんでうるさいと文句を言ったら『じゃあそんな開いた瞳孔で睨まないでくださいよ!』と逆ギレされたことがある。 その時は山崎をぶん殴っといたが、今ならヤツの恐怖がわかる気がする。 いや、俺はこれほど凶悪な顔してないだろ。菩薩じゃねーよ完全に夜叉だよしかも夜叉の中でもダントツにヤバイぞ白夜叉が土下座してんだから、ていうか近藤さんはどうした。 (げっ、) ふと視線を感じてチラ見したら、ボコボコにされた近藤さんが遠くのほうで俺に向かって土下座してた。 それを見たら俺の選択肢はもう、ひとつしかなかった。 「すいまっせんでしたァァァ!!」 俺の貯金、どれくらい残ってたかな。 なるほど、新八がなかなか万事屋に来ないわけがよく分かった。 ちなみにどれが新しい門下生か、結局わからなかったが教わったところで俺の身の安全が確保できるわけでもないからどうでもよかった。 《土方十四郎の業務日誌》 支出 仕訳/雑費 項目/修繕費 支払先/恒道館 金額 ・・・・・・・。 |