リクエスト・企画小説
はな様りく 君と僕のプロローグ
「帰るぞ」

 ボス、ザンザスの声と共に、山本は軽い身のこなしで5階建ての校舎の窓から一気に下へと飛び降りた。
音も無くザンザスの傍へ寄ると、そのまま後ろにひたりとその均整のとれた身体を隠す。イタリアトップマフィアのボンゴレ10代目に選ばれた沢田綱吉に異を唱えた暗殺集団ヴァリアー。その首領であるザンザスが日本に訪れたのは、まだ夜も明けぬ日本時間午前3時47分のことだった。



 山本武がイタリアに来たのは6歳になったばかりの頃。『海外でも寿司の美味さを広めたい』と大きな夢を抱いた父剛にくっついて、まずはロシア、そしてアメリカ、最後にたどり着いたのがなぜかイタリアだった。
 日本人の通う学校でイタリア語を学んだり、級友とサッカーを楽しんだり、平々凡々の学生生活を送っていた―――そうあの日まで。
 その日、山本は行っては危険だからと念を押されていたにも拘らず、興味本位でスラム街に踏み込んでしまった。陽が高いのに何故か薄暗く感じる、まるで違う世界に迷い込んでしまったような、いつもの自分の居る場所とは雰囲気も感じる匂いさえも何もかもが違って見えるそこ。
(やばい、早く帰らなくちゃ)
 思って踵を返そうとしたときにはすでに遅く、背中にひやりと冷たい刃先を感じて山本は両手をオズオズと掲げた。
 ドカッとその背中を硬い踵で蹴り付けられ、石造りの小汚い壁に額を思い切りぶつけて倒れる。

「・・いっつぅ・・・」

 割れた額に触れる暇も無く襟首を掴まれ、両脇から腕を入れられ支えられるようにして膝立ちになると、一人の少年が手に持ったバタフライ・ナイフで、するりと山本の頬を撫でた・・・しかし撫でられたと思ったその瞬間、山本の頬はぱっくりと割れ、ダラダラと真っ赤な血が流れ始め、石畳に血だまりを作っていく。

「・・・・あ・・」

「かわいい僕ちゃん、こんなトコで遊んでいるからこんな目に逢うんだぜ?」

 だくだくと頭から、頬から流れていく血を見ても、怖がるどころか楽しんでいるその様子に狂気を感じて山本はあわてた。

「ちょ・・やめろよ!俺道に迷っちまっただけなんだって」

「あっそ?そんなのどーでもいいよ。俺たち今すっごい暇なんだわ。金もねーし、女もねーし。だから、お前で遊ぶの。そんだけ」

 シュ―――そんな音が耳元でしたと思った瞬間に、山本の耳たぶがスッパリと切れ飛び、その切れた物を山本の目はスローモーションのように追った。

「・・うあぁぁっっっ!?」

 瞠目し、触れようともがく両腕は拘束されているために、どうにもならない痛みに頭を振って耐える。

「次どこいくー?鼻ー?それとも、このかわいらし〜い唇ー?」

 大きな刃を山本に見せ付けるように翳しながら、つつう、とその刃についた山本の血を指でなぞる。
(・・・気持ちわるい・・・・)
 痛い、怖い、でもなにより、人を傷つけることをなんとも思っていないその目が恐ろしい。ここは踏み込んではいけない場所、正常な人間は入れない場所だ。
 
 どうしよう、俺馬鹿だった、父ちゃん・・父ちゃん!!

 ―――山本がずきずきと痛みに耐え、どうやったら逃げ出すことが出来るだろうかと、ともすれば霞んでしまう意識の中で考えていた、その時。

「俺のテリトリーで好き勝手やってんくれてるじゃねえか!!」

 硬質な、怒声といってもいい声が背後から降りかかり、山本ははっきり覚醒した。

「・・・ザ・・ザンザス・・!?」

「るせぇどカスが!!馴れ馴れしく人の名前を呼んでんじゃねぇ!!」

「ひぃっっっ!!」

「逃げるぞッッッ!!」

 ザンザスというその男が一喝した途端、両脇の腕がいきなり外れて、山本は石畳に叩きつけられた。

「・・・っつーーーーっっっ!」

 割れた額をもう一度ぶつけてもんどりうった山本に降り注ぐ冷ややかな声。

「・・・・ここはてめぇのような一般人が来る所じゃねぇ。早く出て行け」

 ゆるりと頭をもたげて見つめる先に立つ男は、自分よりも随分年上の、凶器のような光を放つ目を持った、背の高い頑強な体つきの―――『マフィア』そのもの、というような男だった。
(わ・・・・俺、体が震えてる・・・)
 山本武は普通の少年だった。が、父剛と海外を渡り歩いたせいか度胸もあるし、腕っ節も僅か6才ながらそんなに弱い方ではなかった。おまけに根っからの明るさと天然気質を併せ持っており、何度も転校を繰り返してもその地に順応するのがすこぶる早かったのはそのせいもあるだろう。
 そんな山本だからこそ出来たことだったに違いない。顔から血を流し、耳たぶは切れているというのに、その震える手を伸ばし外見からして100人いれば99人までは恐ろしいと答えるであろうザンザスという男の長いコートの裾を思いっきり握り締めた―――肩から剥ぎ落とす勢いで。

「・・・おい テメェ・・・」

「助けてくれてありがと!!」

 だらだらと額から血を流したまま必死に笑った山本に、ザンザスの眉間の皺が深くなる。

「・・・・別に、俺のテリトリーでいざこざを起こされんのはゴメンだっただけだ。テメェを助けたわけじゃ」

「あんた強いんだな!!あいつら、あんたに声掛けられただけでにげちまったじゃん!!」

「・・・・おい」

「なぁ俺山本武!!何でそんなに強ええの!?」

「人の話を」

「腹筋触らしてー!」

「おま」

「腹筋!!」

「人の話をきけーーー!!!」

 ゴスッと殴られて山本はまた更に額が切れた。

「イテーーーーってば!!これ以上殴られたら死ぬじゃん!!」

「死ね!!!!」

 額を押さえて蹲っていると、そのまま行ってしまおうとするザンザスの背中が見えて、山本は追いすがった。自分の胸ほども無い小さな体だが殆どぶら下がられている状態、けれどザンザスの頑丈な身体はびくともせず、さらに武の目が輝く。

「っ・・・いい加減に・・・!」

「一宿一飯の恩義だ!!」

「・・・・・ああ?」

「あんたは俺のこと助けてくれた。だから、あんたが困った時は俺が絶対助けるから!」

 ザンザスは己のコートを引き千切る勢いで掴み、大真面目に戯言をほざくその幼い顔を見て瞠目する。

   『絶対 助ける』

 コーサ・ノストラ、ドン・ボンゴレの息子であるザンザスを。既に暗殺集団を率いているこの俺を

 ――――助ける、だと?こんなチビのチンクシャが?

「・・・・・・」

「ん?」

 こわもての顔を横に俯かせ、肩をぶるぶるとふるわせているザンザスに(あちゃ、ヤバイ!もしかしておこらせちゃった?!)と武がコートを掴む手を離そうとした、その時。

「ぶはーーーーーーーーっっっ!!!っははははっ!!!」

「うぎゃっ!」

 いきなりグイッと首根っこを掴まれ自分の目の高さまで山本を持ち上げたザンザスは、それは楽しそうに笑っていた。
(うわーうわーすげえ!!俺持ち上げられてるよ!片手だぜ片手!!)
 他人から見たらどうでも良さそうな事かもしれないが、男にとって、ましてや子供にとっての強い男というのはいつでも憧れの対象だ。
 山本武は幼心にも純粋にザンザスの力強さに憧れ、その大きな目をキラキラさせて見つめた。
 
「歩け」

 目線から引き降ろされて、乱雑に地上へと落とされる。歩幅の大きなザンザスについて行くと、自分がもと来た道がそこにあり、すぐに引き返そうとするザンザスの手に山本はまだ小さな手できゅ、と小さく縋った。

「なぁ、また会える?」

「さあな」

「俺、あんたをどうやって助けてあげたらいい?」

「自分で考えろカス!・・・―――恩を仇で返すなよ」

 裏切りと愛憎渦巻くマフィアとは思えぬ言葉を山本に与えて(山本の見間違い出なければ、少しだけ面白そうに笑って)ザンザスは消えた。


 それが、2人の最初の出会いであり、それ以後の8年間ついぞ山本武はサンザスを見ることはできなかった―――何故ならばザンザスは謀反を起こし9代目の手によって永い眠りについてしまっていたから。
 だが数奇な運命のめぐり合わせによって山本武は剣帝を倒した男、スクアーロと出会うことになり、彼の口からザンザスの現在を知ることになる。

「お前がボスの何なのかは知らねぇし、ボスのことを知ったからといっておまえがどう動こうと俺の知ったこっちゃねぇ。だが、お前にその意思があるのならボスの戦いに立ち会うがいい」

 俺は、あの時ザンザスに命を助けられた。もしもあいつが困った時には俺が助けると約束した。

「あいつの・・・ザンザスの願いなのか?その10代目になるというのが」

「そうだぁ」

「なら、問題はねぇ。俺はザンザスをボスとして、アイツが10代目になるのを見届けるぜ!」


 かくして、目覚めたザンザスに「阿呆だ!こんな阿呆見たことねぇ!!」とさんざっぱら笑われ、それでもザンザスの補佐として山本武14歳は生まれ故郷日本へと渡ることになったのだった。



(並盛町かぁ・・・)
 今朝方日本に着いて、一度場所の確認のために並盛中に立ち寄った一行だったが、時差ぼけも覚めやらない身体では動くのは得策ではない、とザンザス達はまだ睡眠中だ。
 イタリアにいたときは異邦人だった山本だが、ここは自分の生まれた国。人々の顔の色、目、髪の色どれをとっても全く自分と同じものでなんだか嬉しくなる。
 『補佐のくせに勝手にウロチョロするな!』と顔の割に生真面目なレヴィにはよく諌められるけれど、せっかく帰ってきたのだ、どうせ眠れないのなら少しくらい羽を伸ばしても良いではないか。

「ねえ君、見ない顔だけど並盛の人?」

 後ろから硬質な低い声で声を掛けられ『俺か?』と振り向いた鼻先に、いきなりスチールの棒を突きつけられて山本は目を見開いた。

「うわ、びっくりした」

「・・・・全然そんな感じじゃないんだけど。ねぇさっき僕が言ったこと聴いてた?」

 目の前の少年は不機嫌そうに自分を見上げて、鼻先のそれを山本の咽喉元にゆっくりと動かす。

「んーーー・・・・まあ確かに俺地元は違うけど。でも、こんなん突きつけられるような悪いことしてないぜ?」

 スチール棒の先端を人差し指でつん、と押し返すと、相手の方も ぐ、と力を込めた。
(あれ?・・・へぇ、おもしれーな)

「大体“藪から棒に”・・っていうんだよな?なんなんだ?こういうの流行なわけ?」

「・・・・全然」

「あ、もしかして新手のナンパ?ざっんねーん俺ってば男なのなー!」

「・・・・・・・見ればわかるよ」

(・・・なんだろう)
この薄手のシャツにジーンズ姿で背中に刀をしょった青年なのか少年なのか―――は。
 どう見ても怪しげなのに殺気もなければ、かといって・・隙も無い。
 雲雀が考える僅か数秒の間に、山本はハッと表情を変え、ポンと手を叩いた。

「なぁ!あんた今暇?」

「は?」

「俺、日本に来たら行きたいトコあったんだ!!案内してくれねえかな?」

「日本に・・・って、君外国から来たの?」

「そうそう!あのな、バッティングセンター知ってる?俺アレすっげーやりてえの!!」

「すぐそこに、並盛バッティングセンターってあるけど・・・」

「そこだーーーーー!!!!」

 グイ!といきなりトンファーを握りこまれ、猛烈な勢いで歩道橋の手すりを走り出した山本を、あわてて追い駆ける。

「ちょっと!!なんでこんな所走るのさ!!」

「えーっだって、いちいち人避けるの大変だろ!?」

 なにこいつ!?けれど、そのトンファーはしっかりと捕まえられたままで離してくれそうにないし、何より―――
   (おもしろいな)
 視線を合わせて、その空気を読み取れば分かる。この少年はきっと強い。背中に持つ獲物でどのような攻撃をするというのだろう
(まさか、飾りじゃないだろう?)
雲雀は初めて会ったというのに何故か、目の前を足取りも軽やかに走る少年が気になって仕方なかった。




「うあーっ!ちくしょーっ最後の一球はずしたーーーっ!!」

 ブン!!と空を切ったバットを地面に叩きつけて悔しがるその顔を雲雀は興味深く見つめた。
『初めてやる』と言う割に、300球中の最後の一本を外しただけで、後は殆どヒットもしくはホームラン(チップもあったが)だったのだ。

「君、ほんとに野球やったこと無いの?」

 バットを立てかけて、汗を拭っている少年は振り返ると雲雀をみて嬉しそうに笑う。

「おう。俺の居る国ってサッカーが主流なのな。だから野球やりたいんだけど、一緒にやってくれる奴がいねえんだ」

 けど俺けっこううまかっただろー?そうニッコリと笑って押した自販機から、ガコンと落ちてきたのはなんと牛乳のパック。

「これも好きなの」

「・・べつに聞いてないし」

 あははは、そっか。そう言って牛乳をストローで吸う。顔や体つきは大人っぽいけれど、どうも話している内容に違和感を感じてしまう。

「ねぇ、君いくつ?」

「んー?14。あんたは?」

「15・・」

雲雀がそう答えたときだった。

「山本ぉ!」 低い濁声に、山本武が振り返る。「あれ?スクアーロじゃんか」と言ったと同時に頭をゴツンと殴られ、「ぐえっ」とかえるが潰れた様な声が聞こえた。

「なにしてやがる!仮にもボスの補佐だろうがぁ!」

「ただバッティングセンターに連れてきてもらってただけだろー!この親切な中学生に!」

 ―――いきなりトンファーを突きつける中学生を親切と言っていいものかは分からないが。
 目の前でギャアギャア言い合いを始めた二人に雲雀が付いていけない、と踵を返そうとすると「う゛おおぉぉい!!」そう言って背中に突きつけられた、それ。

「ちょっとスクアーロ?」

 怪訝そうにスクアーロの肘をつかまえた山本の手を振り払うと、そのまま鋭い切っ先を振り上げる。

「え?!お、おいっ!!」

 ブン!と振り下ろされる長刀を山本が背中の愛刃で受け止めようとする手を制して現れたのは、さきほど山本を襲おうとした鉄製の二本の棒だった。
 鈍い音と共に受け止め、ギリギリと睨みあう二人を見ながら、山本は『何か忘れているような・・』と懸命に頭を悩ませる。
(なんだっけ なんだっけ・・確かザンザスと十代目を競い合う奴の仲間にこんな武器を使う奴がいるとかいないとか・・・)

「えーと、これってもしかしてトンファーとかいう・・・?」

 小首を傾げてガンガンやりあっている片方の武器をのん気に指差す山本。そして思い出したように父親から譲り受けた背中の愛刀時雨金時を抜き出し二人に向かって走り出す。

「こらスクアーロ!俺の相手じゃねえか!!」

   ビュッ キィン ガガッ!!

 三つの凶器が重なり合い音を立て、火花が散った。

「邪魔すんなぁ!!」

「誰彼かまわず攻撃すんなって!お前の相手は違うだろー!?」

「・・・・君、ヴァリアーとかいう・・・?」

 トンファーを眼前に構え一分の隙も無く2人を見据えて言葉を発する雲雀に、片眉を上げておもしろそうに山本は答える。

「当たり!!」

 と同時に大きく前に踏み出し足元を掬うようにその細身の剣を鋭く振り切った。
 とっさに避けるも円を描く四方からの素早い攻撃に腕を切られ、一歩後ずさりながら再びの攻撃に備えて雲雀は身構える。だが、山本からのそれ以上の攻撃は無く、いぶかしむ雲雀の前で鈍く光る細い剣を鞘にするりと収めた。

 「あとは、公式戦でのお楽しみに取っておこうぜ?」

 先程の屈託の無い笑顔はどこへやら、挑戦的に雲雀を一瞥して「行こ スクアーロ」とまだやり足らないと言う顔をしている長髪の男を引っ張って姿を消してしまった。
 ざわざわ・・・・いきなり始まりそして唐突に終わってしまったいざこざに出来ていた人だかりも散り散りに何処かへ行ってしまい、ぽつんと雲雀一人が取り残される。
(そういえば、跳ね馬が何か・・・)
 
 ―――守護者戦で戦う相手の仲に日本人の同年代の少年がいるんだ。だけどそいつはヴァリアーとはどうも関係無いらしいんだよ。出来れば無傷で捕らえたいんだが・・・恭弥じゃ、無傷って訳には・・・いかんわなぁ

 難しい顔をして頭を悩ませていたあの金髪が言っていたのはあの子の事だったんだろうか。
(何が無傷で、だ。手加減なんてしていたらこっちが危ない)
 それにしても、武器を交えてあんなに心躍ったのは殺し屋の赤ん坊以来だった。

「・・・今度戦うのがとても楽しみだ・・」

 雲雀は手の中の武器を仕舞うと、うっそりと微笑んだ。



「この阿呆が!」

 戻ってきた山本を迎えたのはボス・ザンザスの怒声だった。

「テメェは守護者戦に出すなんて言ってねぇだろうが!!」

「いや俺もう決めてきたし。言っちゃったもん、なぁ?スクアーロ。あのトンファーと戦うの俺だーって。だから雲の指輪貸して」

「このガキが俺の邪魔をしやがったんだぁぁぁ!!」

「るせえっっっ!!!」

 ドガス!!とスクアーロを踏んづけて山本の前にズイッと出てきた大きなガタイに、少しだけ仰け反るとグシャリと頭を硬くて大きな手で一掴みされる。

「いてーっ!いてーーってばー!!」

「ウルセェこのどカス!!テメェはこの俺様の補佐として来たんだろうが!!勝手なことばっかしやがって!!」

 しん・・・と静まり返った室内で、山本はザンザスの大きなその手をそっと自分の両手で包んで外すと、荒れる瞳をじっと見つめる。

「なあザンザス、俺はあんたを助けるために来たんだ。黙って座って見てるなんてゴメンだ―――大丈夫。絶対勝って、あんたをボンゴレの10代目にしてみせるぜ」

 色素の薄い目で真摯に見つめる山本に、暗殺団の首領は一瞬だけ苦々しい顔をしたが「勝手にしろ!!」そう吐き捨てて、自室へと戻っていった。
 その後ろ姿を肩をすくめながら見送って、山本は窓辺から決戦場所である並盛中を遠く眺める。
(あいつと遣り合う)
データによればこの並盛町で一番強いのだと言う、先程の少年。日本に来る前、その資料を見てからずっと戦いたいと思っていた。
(写真、載ってなかったんだもんなぁ)
 特殊な武器と、雲の守護者であること、強いということ。それしか書いていないデータって意味があるのだろうか。
(まぁでも、戦ってみないと何にもわからないし)
無理矢理連れて行けとせがんだ様な物だったバッティングセンターで、それでも帰らずに傍らで見ていてくれた辺り、意外と優しいのかもしれない。
(・・・ついでに、顔も悪くなかった。いや別に俺面食いじゃねぇけどさ)
なんというか、いい面構えだった。ザンザスもそうだけれど、戦う人間というのは、内に鋭気を秘めた、とてもいい目をしていると思う。
(ザンザスは外側も肉食獣っぽいけど)
強くて、優しくて、顔も良くて。女の子にさぞやモテるだろうなぁ。「ちぇ」もっと違う所で会っていたら、友達くらいにはなれたかもしれないのに何だか残念。
(だけど、俺はザンザスを10代目にしたい)
小さな頃、自分の命を救ってくれたザンザス。かの人が居なければ自分がこの日本の地を訪れることは、いやこうして成長することすら無かったのだ。
 彼がそうなりたいというのであればマフィアの10代目の椅子に座らせるために自分も力を尽くそう、そう心に決めてきた。
(だから)
手加減などしない。手加減して勝てる相手だとも思ってはいない。

「雲雀恭弥」

あんたを倒す――――!
 グッと、横に携えた愛刀に力を込める山本の瞳の中に、はっきりと鋭気の光が宿った。




「雲雀はうちのエースだ」

 誰かが言ったその言葉にザンザスが声をあげて笑う。

「それならば、その山本もうちの“エース”だ!」

 楽しげに顎に手を当ててふんぞり返る様を見て、山本は少しだけ口元を歪ませたが、すぐに一部の隙も無く構えている雲雀と対峙すると、ふと目を細める。

「この間の傷、治った?」

「・・・・あんなの、怪我のうちに入らないよ」

 雲雀の軽口にくすりと笑う。そんな山本に雲雀も目元だけで笑い返し。

「―― 君、名前は?」

「俺の方にはとりあえず相手のデータ、あったけどな。あんた達全然俺らのこと知らねぇの?」

「大将が大将なものだからね」

 その尊大な物言いがどことなくどっかの誰かと重なって、ふ、と山本はまた笑った。

「君は、笑うとかわいいね」

「・・・・初めて言われました」

 呆れたように、けれど楽しそうに、ジリ、と間合いを詰めながら。
 すいと細い手が上がり、無機質な声が響いた。

「雲の守護者戦 始めます!」

 チェルベッロの声がすると同時に2人の武器が音を立ててはじける。お互いの武器に自らの最大限の力を込めそして離れる瞬間、山本は雲雀の強さに歓喜の声をあげた。

「ひばり!!俺は山本!山本武だ!!」



 雲の守護者戦の始まり、それは2人の始まってはならない恋の序章でもあった。




                 おわり・・・?はな様リクの「敵設定の山本。ヴァリアー側の人間でした的な。ザン→山でヒバ山」どっちかって言うとザン←山っぽかったですけど、ボスは山本を可愛がってるんですよこれでも・・・。スクアーロとのエピソードとか入れちゃうと物凄く長ーくなっちゃうので、所々はしょって頑張って縮めてみました(^^;)なんだか尻切れトンボになった感がありますので機会があったら続きを書いてみたいと思います。はな様、リクありがとうございました。

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