リクエスト・企画小説
一武 六日目
明日はとうとう雲雀の誕生日だ。
(ここまで良くがんばったなあ 俺)
山本は感慨深そうに目を閉じると、下ごしらえをした鶏肉にラップをかけて冷蔵庫へ仕舞いこんだ。
練習試合の翌日だった今日は、山本の目の腫れもすっかり引いて昨日の反省会なんかをしてから通常の練習をした。
今日の一武は実は何もしていない――明日の為に取っておく。だからその為に弁当の下ごしらえをして、そしてこれから電話をするのだ。掛ける先は勿論怖くてエッチで優しい委員長。
・・・まあこれも、一武に換算してしまおう。


二階の階段上がってすぐに電話機が置いてある。コードレスだから部屋に持ち込んで電話すれば良いのに、どうしてか山本は廊下で電話をしてしまう。
コールの音も聴かないうちに低く甘いテノールが聴こえて、山本は別な意味でドギマギした。
「・・・ひばり、あのさ明日って夜、いる?」
山本は意を決して口にしてみた。誕生日といったって大したことはできないが、5日という彼の産まれた特別な日を自分は祝いたいと思っている。けれど自分がそうであるように、彼にも誰か他に一緒に祝う人がいるかもしれないから。彼が、産んでくれた人に感謝をする為に、あの部屋を空けるかもしれないから。
『居るよ』
簡潔な応えに、それを聞くまで息苦しさでいっぱいだった山本の胸に安堵が広がった。
「よかった・・あのな?俺明後日休みで・・・」
そこまで言って山本は、咄嗟に受話器を持つ手の反対の掌で口を覆った。
・・・だって何だかそれって、泊まりに行きたいって言っているように聞こえるんじゃないだろうか。お祝いをしたいだけだ。お祝いをするだけだ。断じて次の日まで雲雀を独占したいとかそんな事を思っている訳じゃ――
『おいで』
どう言ったら上手く雲雀に伝わるだろうかとぐるぐる考えていた山本に、雲雀は。
『僕の誕生日なんだから、僕の為においで。君が足りなくて窒息しそうだ』
「ひば・・」
口許を押さえていて良かった、と山本は思った。もしも何も遮るものが無かったら、きっと雲雀の言葉を聞いた途端に漏れてしまった熱い息が、受話器の向こうに届いてしまっただろうから。
「いく」
『待ってるから』
「すぐ、行く」
『うん、ごめんね』
いきなり謝られて少しだけ力が抜けた。
「ひばり?」
『君の顔見たらたぶん我慢できないと思うから今のうちに謝っておく』
「!」


そんな風に言われたら、拒否できないどころかもう―――。


敷いたばかりで冷たい布団に熱くなった体を押し付けながら、山本はもう暫く雲雀に電話なんかしない、と思った。
(だって、ひばりがあんなこと言うから)


あの声で、あんなに切なく

だから




想いばかりが募って




眠れない







恋愛中なんてそんなもの

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