リクエスト・企画小説
トト様リク ねぇダーリン知らないの?
「う゛おぉぉい!何だここじゃ、客に茶もださねぇのかぁぁ」

 イタリアボンゴレ邸内のシンプルな黒尽くめのスーツ集団の中、黒のラバーコートに思い思いの飾りと凶器をぶら下げた異色集団ヴァリアー。
 ぶしつけな視線を浴びせられる中で濁声を張り上げるスクアーロに、スッとワイングラスを差し出したのは、10代目ボンゴレ・沢田綱吉の右腕(獄寺言う所の肩甲骨)山本武だった。

「まぁ、これでも飲んで落ち着けって。今頭同士で会談中なんだから、静かにしてねぇとザンザスにどやされっぞ」

 ボスの名前を出すと途端に「う゛っ・・」と言葉につまり、大人しくなる。
 本日このボンゴレ邸にて、3年間暗殺部隊ヴァリアーに貸し出されていた山本武を正式にボンゴレ雨の守護者として返して欲しいというドンの要請を受けて、3度目の話し合いの為に山本の現ボスであるザンザスは部下を引き連れて赴いていた。



 事の発端は中々リハビリの進まないスクアーロに業を煮やしたザンザスが、『てめぇの所の雨の守護者を貸しやがれ』と綱吉に持ちかけたことだった。
 最初は一年間のはずだったのだ。ところが、契約期間を過ぎスクアーロも本調子ではないとはいえ戻ってきたのだから、契約を解除するようザンザスに契約の破棄を申し出た所、『ゴーラ・モスカの後釜を都合してくれるまでこいつは預かる』とけんもほろろな返答を受けた。
 もちろん黙って見過ごしたわけではないのだが、何分国家機密のそれを、それこそ穏健派の綱吉が用意できるはずも無く・・・。

「まぁいいさ。俺は・・・慣れたし、な?」

 暗殺に慣れも不慣れも無いだろうけれど、山本はボスであり親友である綱吉の胸中を察し、ヴァリアーに居残る事となった―――。
 そして4年目となったのだが、ここでどうしても山本に戻ってきてもらわなければ困る事態が。




『10代目、俺だけじゃどうしようもありません!』

 山本が貸し出された後も、綱吉の右腕としてその手腕を振るっていた獄寺だったのだが、なにせボンゴレは巨大組織、トップがしっかりしていなければ下部組織がグラついてくる・・・というのに。

『笹川の兄貴は一回出て行くとフラフラどこに行っちまうかわからないし、雲雀の野郎は山本がいないんなら用は無いと日本に帰ろうとするし、何より下っ端が増えすぎて俺だけじゃ手に負えないんです!』

(おまけに、山本大好きのうちの元家庭教師が、山本の顔が見えないと不機嫌で、備品壊しまくりだしね・・・)
 そんなこんなで、これ以上山本を貸し出していると、こちらが壊滅の危機に陥ってしまうという訳なのだ。




 スクアーロと同じ形のグラスで同じワインを口に運ぶ山本は、まぁそろそろ潮時だろうと考えていた。
 
 ―――その、何といっても自分の恋人雲雀が、限界にキている気がする・・・。

 たまにボンゴレ屋敷に顔を出すと、待ってましたとばかりに無体を働かれ、ほうほうの体で還って来るということがこの一年の間に何度あったことか・・・。
 バァン!!と大きな音を立てて開いたドアを、執務室の前で待っていた大勢の目が一斉に見つめた。

「ボス!!」

「10代目!!」

 席を立つ黒服たちの間を足早に突っ切って、ワイングラス片手にソファに腰掛け、片眉を上げやや上目遣いでザンザスを見つめる山本の前でがつり、とその長い足を止める。

「本契約は解除だ!だが場合によってはてめぇを借りることもある」

 たったそれだけ三白眼で睨みつけながら苦々しく吐き捨てると、後ろにいる現ボンゴレには目もくれずに立ち去ろうとするザンザスを、引き止めたのは山本だった。

「あー、ちょい待って。俺、もうここに居ていいんだろ?」

「・・・このカス・・!!」

 今言ったことの何を聞いていたんだ、と言わんばかりの形相で振り返ったザンザスを、周囲がビビリまくりで見ているのに、当の山本はどこ吹く風。

「んじゃ、言いたいこと言っとくな。まずルッス、日本食のレシピ後でファックスで送るから。わかんないとこはメールして?それからベル、月に一回は寿司作りに行ってやっから、『寿司くいて〜』とか言って誰彼かまわず傷つけるの止めとけよ」

 2人にそう声を掛けると、今度はおもむろにちょいちょい、と隅で見ていたちっちゃいのと大きいのを手招きし、こそこそっと耳打ちする。

「それからマーモン、俺が居ないからって、女の風呂場透視するのやめろ。レヴィは髑髏の写真新しいの送ってやっから、枕の下のがびがびのアレなんとかしろ」

 青くなったり赤くなったりする2人をにっこり笑って「もういいぜ」と向こうへやり、そして隣のスクアーロにピッと節くれた人差し指を立てると

「で、スクアーロ、月に一回の診察サボらないでちゃんと行けよ!」

「って、お前は俺の母親かぁぁ!!」

 ぐわーーーっ!と怒るスクアーロの左腹部をボスッと殴る。

「ぅぐっ・・!」

「・・・まーだ完璧じゃねぇんだからさ」

「・・・くのヤロ・・・」

 ニヤリと笑った頬をムギュっとつねられ、山本は楽しそうに「痛えって!」と歪めた。

「んで、ザンザス」

 長身の2人だが僅かに山本の方が背が低く、体つきも細身だった。その山本がザンザスの肩にそっと手を置き、耳元で何か囁く。
 こわもてだが造詣の整った男2人がそうして寄り添う姿は、周りの者達にはそこはかとなくいかがわしい物に映った。
 何を話していたのかサッパリと聞こえなかったが、何故か暗殺集団の首領は楽しそうに頬を歪めると一言。

「・・・カスが」

 そう言ってバサリと肩に掛けているコートを翻し、サングラスを取って「武〜!」と泣いているルッスーリアの襟首を掴むとその他の部下を引き連れて行ってしまった。




「・・・・はぁ〜!」

 途端にそこここから安堵のため息が聞こえ、後ろでは綱吉がヘナヘナと座り込んでいる。

「や、山本〜、よくあんなおっかない人達ばっかの所に4年近くもいられたね〜」

 当主ではあるものの、まだまだ経験の浅い綱吉、殺気バリバリのヴァリアーはまだまだ苦手のようで、山本はそんな綱吉の変わらない性格が大好きだった。

「んー・・・おっかないけどなぁ。けど、あいつら結構おもしれーんだよなー」

「・・おもしろいって・・・」

 その時、音も無くドアをくぐってきた人物を見つけて、くっくと笑う山本の顔を呆れながら見ていた綱吉の顔からザーーーーッと音を立てて血の気が引いていった。

「・・・どしたツナ?」

 と、小首を傾げる山本は背後に物凄い殺気を感じて愛刀に手を伸ばしたが、その手をガツリと体温の低い手の平で止められて、その背に立つ人を凝視した。

「・・・・ひば」

 全部名前を呼ぶ前に、しゃがみ込んでいた襟首を掴まれて立たされ、衆人環視の中問答無用でドアの向こうへ山本は拉致されてしまった。





「・・・・・・で?」

「は?」

 ボンゴレ邸の東側、守護者用の棟の隣り合った2人の部屋、雲の守護者のベッドの上、久しぶりに会ったというのに怖い顔で恋人雲雀恭弥に詰め寄られて山本は辟易する。

「あのボス猿に、君何て言ったの」

  ・・・ああ

「見てたのか」

 見てたのか。そう言った途端、雲雀の眉間の皺がぐっと深くなった。

「・・・見られていたら、まずいことだったの?」

 嫉妬深い恋人。もう何年も、自分はただ一人のことしか頭に無いというのに。

「別に。ただ『いい酒が入ったら呼んでくれ 飲みに行くから』って言っただけ、だぜ?」

「・・・・ボス猿だけじゃない。あいつら全員噛み千切ってやりたい」

 ―――本当に嫉妬深い。でも、足が地に着いていないと言われる自分には、それくらいじゃないとダメなのかもしれない・・いや、ダメなのだ。

「あのな、なんつーかあいつらとは・・そう!女子高生のノリなんだよ!」

 わいわいきゃあきゃあ あーでもないこーでもないって、そういうノリがすごく楽しかった。意外に思われるかもしれないが暗殺集団なんて言っても普段はそんな感じで。

「・・・・ふん、まあいいよ。そういうことにしといてあげる」

するり、と頬を撫でて。
やんわりと押し倒されてベッドの上に2人横になる。

「でも、君を最初に好きになったのは僕だからね。それから、誰より君を好きなのも―――わかってるの?」

キスされる

「・・・そんなひばりを好きになったのは俺だろ?そんで、これからもずっと俺が好きなのは雲雀だけだぜ?」

 合間を縫って、吐息とともに。
あとはもう、お互いの身体を余す所無く求め合うだけ―――。

 ギシギシと攻め立てられながら、山本は思う。
(だってさ、言えねぇよ。酒飲みながら実は恋人の嫉妬深さについての愚痴とその彼に対する惚気を聴いてもらってます―――なんてさ)



 ザンザスからメールが届く頃には、少しくらい落ち着いてくれるといいなぁ、そう思いながら隣で眠る雲雀の伏せられた長いまつげを愛しそうに見つめ、腰をさする山本。
 そして、そんな自分が酔いからさめるとなぜか抱き枕よろしくザンザスの長い手足にピッタリ絡みつかれているという謎は永遠に口にはしまい、と心に誓う山本だった。


                  おわり

天然な山本さんを逆手にとってボスは腕枕とかもしちゃっていたり・・・。んで、雲雀と間違えた山に擦り寄られて逆にドキドキしてたりするんですぜ。『ヴァリアーと仲のいい山本さんに嫉妬する大人気ない雲雀さん、10年後設定』ということでしたが、若干若く、武22歳です。ちょっとボス贔屓気味でしたか?楽しく書かせていただきました(^^)トト様リクありがとうございました!

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