リクエスト・企画小説
一武 二日目
さて、本日の一武は平日というのもあってはっきり言って手抜きといわれても仕方がない。なんせ部活が終わって帰ってきたらもう6時。これから風呂の掃除をして洗濯物を畳んでご飯食べて風呂入ってetc――と部活帰宅後の山本は就寝までにしなくてはならないことが山ほどあるのだ。
寝る時間をずらせばいいと言うなかれ。朝五時には起きて朝食の下準備をし、ランニングに行くことを考えればどうしたって10時以降になど寝られない。ましてや部活動中は人一倍熱心に取り組む山本だ、一日の疲れも半端ではない。

そんな山本が考えた今日の一武は“電話”。

そう利便性のよい携帯用小型機器でちゃっちゃとメールを打って送って終わりにしてしまえーーーー!!




・・・な訳ない。

今の世の中小学生でも携帯電話を持っている子供は珍しくないのだが、山本武は周囲の期待通り携帯電話など持っていない。だって必要無いのだもの。部活の連絡は電話で事足りるし(部員数が少ないから)、就寝時間が10時だと知っている友人達は9時以降は決して電話など掛けてこない。それに話したいことがあれば、学校で休み時間に充分すぎるくらい話しているから。
ただ。
最近少しだけ、もしも手元に携帯電話があったらなぁと思うことが無い訳ではない。
雲雀と学校が離れてしまってから、話をするどころか顔を見るのも難しくなってしまった。お互いのスケジュールの都合が合わなければ、一週間も二週間も会えないなんていうのはざらで。だから昨日あんな風に時間を措かず出会えたのは、本当の本当に凄くラッキーな偶然だったのだ。
(ええと、090の・・・)
雲雀の携帯の番号はずっと以前から教えてもらっていた。それもその携帯は山本専用なのだといわれて、嬉しいやら恥ずかしいやら。いつも持ち歩いていると聞かされたときは、どんな顔をして良いのか分からなかった。
それなのに自分ときたら、その山本専用だという電話に掛けた回数は、片手の指で足りるほど。だから『一念発起』なんて大層なものでもないけれど、ちょっとかしこまって電話を掛けてみることにした。
プルルルル プルルルル
単調な機械音が続く。番号は合っている筈なのに雲雀は出ない。・・・・もしかして、まだ風紀委員はどこかを見回りとかしているのだろうか。ブツッという音と共に機械の音声が流れ、留守番電話にメッセージを入れるよう促される。
「あ・・・・あの・・・」
山本はこういうのが凄く苦手だ。誰かに向かって喋るのは全然苦じゃないのに、人のいない空間にいかにも話しかけるように言葉を繋ぐのは難しい。・・・大体何か用事があった訳でもないし。
もごもごしているうちにピーッと音がして、勝手に切れてしまった。ツーツーツー、むなしく響く電子音を耳に、山本は半開きになっていた口を引き結ぶ。
「く・・・・!」
そうなると何故かむくむく頭をもたげ始める負けず嫌い。山本は再び雲雀の携帯番号を押す。とはいえ、再び留守録メッセージが流れてもやっぱり機械相手に何を話して良いのかわからずに。
「ええいもう一回!!」
「・・・・もう一回っ!!」
「・・もう・・いっかい・・!!!!」


 最後のお客を見送ってレジの精算を済ませ暖簾をテーブルに立てかけると、山本剛は一日の疲れを流すべく、肩をぐりぐり回しながら風呂場へ行く。その前に着替えを取りに階段を上がるとすぐ、いつもは点いていない息子の部屋の明かりが足元へと伸びていて、剛は眠たげだった目をぱちりと開いた。
狭い廊下の階段を上ってすぐの自分の部屋の隣、武の和室の衾は全開で、その武はといえば店に親機、上下の階に子機を各一台ずつ設置してある内の一つをしっかり握り締め、大口開けて爆睡中。
「・・・・・まったく、何やってんだかなぁ」
ガリガリ後ろ頭を掻いて、剛はもう自分の背丈を追い越してしまった息子の肩を担ぐと、背中に背負うようにしてずるずる引っ張り布団を被せかけて電気を消した。
その後、竹寿司の店内に暫く電話が鳴り響いていたのだが、武は夢の中でいつまでも繋がらない雲雀の携帯に向かってギャーギャー叫んでいたし、剛は風呂の中で歌謡曲を熱唱していたので全く気付かず。


今日の一武は、1どころか37武となって、風紀委員の会議中マナーモードにしたままになっていた山本専用携帯電話の着信履歴に残り、その留守録のあ、だのう、だの普段の山本らしからぬ歯切れの悪さは風紀委員長をなぜか喜ばせる事となったのだが。


 勿論そんな事、夢の中やっと繋がった電話片手に喜びモードで談話中の山本が知るはずも無い。





おわり
山本は携帯が苦手だといいなぁ

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