リクエスト・企画小説
一武 一日目
一日一武と題した所で、さてなにをするか。一日うんぬん言ったって、はっきり言おう元手は無い。一応頑張って一日一回顔を見せに行こう!!とは思うものの、それではあまりにも芸が無いような気がする。
「そうだなぁ・・・・」
いきなり行き詰まってしまった。
本日29日は『昭和の日』。前はみどりの日という名前だった気がするけれど、そんなどうでもいい事は置いておいて。
山本は部活動の終わった部室で今日の部活内容や反省点を書き出しながら、今頃雲雀は何をしているだろうかと考える。祝日だからといって、彼が家でじっとしているという事はまず考えられない。中学生であった頃も、日曜祝祭日関係なく、学校で、商店街で、どこかで姿を見ない日など無かったから。
(・・・・・・・)
雲雀はあまり“食事している”というところを見せない。好物といえば一応ハンバーグだの和食だのとあるにはあるようだが、『食べられる時間に食べられるものを食べる』という感じで、朝起きてお腹が減ったから食べるとか、お昼ご飯の時間だから食べる、これが好きだからどうしても食べたい!!とかではないような気がする。つまり生活の中で食べるという事にあまり重点を置いていないように思えるのだ。
今彼はどこで何をしているだろう。トンファー片手にゲームセンターにたむろしている柄の悪い生徒を相手にあの不敵な笑みをこぼしているだろうか、それとも中学の頃と同じように風紀委員室にしてしまったという応接室で、ノートパソコンを開いてカチカチやっているのだろうか。いずれにせよ、どんな場面においてもそこに何某か食料の類を側に置いているのは想像し難い・・・。
「よし!!」
山本は部活のノートに反省点をさらさら書き込んで勢いよく閉じた。鍵を掛けて部活用のジャージのまま、エナメルの鞄を担ぎ上げ走り出す。行き先は自分の家竹寿司――の、台所。今日の一日一武は、“お弁当を持って雲雀の顔を見に行く”だ。


 昼の時間はとうに過ぎてしまったけれど、雲雀の事だからご飯も食べずに何かしているかもしれない。山本は少し大きめの弁当箱を用意すると、帰ってきて手を洗ってから約2時間かけて作った(その間に夕飯の下ごしらえもしつつ)弁当おかずを手際よく詰め出した。
卵焼きはほうれん草入り。きんぴらごぼうに雲雀の好きそうなゴマをたっぷりかけて、彩りに父がご近所さんから頂いた菜の花のひたしを。これは夕飯にも食べるので、残りは鉢に入れてラップをし冷蔵庫へ。そして忘れちゃならないハンバーグ。山本家のハンバーグは色々な野菜をコンソメと一緒に入れた煮込みハンバーグなのでソースが命。アルミホイルを敷いた上にハンバーグ(勿論山本の大きな手で捏ねたから、それは野球の球二個分くらいの大きさだ)を置いて、荒めに刻んだ人参・玉葱・キャベツをとろとろになるまで煮詰めたソースをたっぷりと回しかける。
「よっし、出来た!」
お重よりは少し小さめだけれど二段重ねの弁当は、きっと雲雀の腹を満たしてくれるだろう。なんせおにぎりは梅干3個に鮭が3個、それもまた山本の大きな手で握られた爆弾みたいな大きさだし。
弁当を大き目の包みでくるみ手提げに入れて、山本はちょっと出てくると、休憩を終えて暖簾を再び表に提げようとしている父の背中に声を掛け裏口から飛び出した。


 はたして日頃の行いが良いからか何なのか、山本はすぐに雲雀を見つけることができた。商店街から出た数メートル先のスーパーで、今日はフリーマーケットをしているといっていたのを耳に挟んでいたのを思い出し行ってみれば、案の定並盛の治安を守ることにかけては警察よりも頼りになると言われている並盛高校風紀委員長雲雀恭弥の姿があるではないか。
「ひばり!」
駆け寄って行けば切れ長のいつも涼しげな眼が不思議そうに丸くなって、山本はぷふっと噴出した。
「なんでここに?」
「それはこっちの台詞だっつの。ここ俺んちのすぐ傍じゃんか」
「だって君部活は?」
「もう終わった。ひばりはまだまた終わらなそうだな!ご苦労さん」
そう言うとおもむろに持っていた手提げを差し出す。もちろんニッコリ笑顔付き。
「これ差し入れ。どうせひばりのことだから、食べるの忘れて警備に勤しんでたんだろ?」
いつまでもよく分からない顔をしている手にそれを持たせれば、ぱちぱち瞬かれる瞳。少し珍しいものを見たような気がして満足感を覚え、山本がじゃあと手を振ろうとすれば、雲雀の後ろから見慣れたリーゼント頭がぬっと顔を出し。
「うわわっ!っと・・草壁さん!?ええ?もしかして草壁さんもひばりと一緒に警備してたの?」
「・・・そうだ」
ぼそぼそ返事をした大きな体躯がどことなく萎れているように見える。もしかして雲雀に付き合って何も食べずにいたのだろうか?・・・あながち間違ってはいないだろう。だってこの人は本当に雲雀を尊敬し服従しているから(でなければ、まだ高校に入学もしていない内からこうして雲雀に付いて警備にあたる訳が無い)雲雀が食べ物を口にしないのに自分だけなんてことは考えないはずだ―――。
山本はちらりと袋を見た。二人で食べたって充分なくらいの量が入っているはず、雲雀が許すなら草壁だって遠慮せずに食べるのではないだろうか。
「ひば」
「草壁、君も食べたら」
弁当の量は多いから草壁にも分けたらどうかと提案しようとした山本の前、その場に座り込んだ雲雀によって包みは解かれた。箸は一膳しか持って来なかったのだけれど、ハンバーグにソースをかけながら食べればと思って入れておいたスプーンを雲雀は草壁へと差し出していた。受け取ろうか受け取るまいかと思案しているらしい草壁にひとこと。
「・・・・・彼のご飯、悪くはないよ」
6個あるお握りを2個弁当の蓋に乗せて渡す。片手にスプーン片手にお握りを乗せられてしまっては要りませんと断る事もできずに、草壁は観念したように雲雀の横へと腰を落ち着けた。自分の方が多めにお握りを取っているのが雲雀らしく、そしてまた山本にとってもちょっとだけ嬉しい。
「へへっ!じゃあ俺帰る!頑張ってなひばりも草壁さんも!!」
駐車場の車止めの上に腰を降ろして山本の弁当をほお張る二人に踵を返して、山本は商店街へと走り出した。


(やったやったやったやった!!)
今日の一武はこれにて終了。上手い具合に会えた上に、なんと雲雀の『山本の手料理は美味しい(激しく山本的解釈)』のお褒めの言葉つき。



ほうれん草入り卵焼きを口にして後姿を見送っていた雲雀の前で、山本が嬉しそうに何処かのコメディアン張りのジャンプをした。





おわり
一武がこんなに長いと後が大変な気が・・・・・あうう

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