リクエスト・企画小説
光輝くオリオン ザン山
光輝くオリオン

クリスマス、日付はとっくに変わって、24・25の二日間に渡ったボンゴリアンパーティーもお開きになって、誰もが自宅へ帰ってゆっくり朝まで眠ろうという時間に、その男はやって来た。
血臭を纏った暗黒の王の登場に、ホールにいた全員が動きを止める。
「・・・ザンザスだ」
「なんで、こんな日に」
ボソボソ囁きあう組員達の間を一歩男が進むごとに、まるでモーゼの十戒のごとく人の波が左右に開ける。
クリスマスなど、この男たちには全く関係が無かった。そもそもこの仕事をヴァリアーに執行するよう言いつけたのはボンゴレであり、労いや感謝されこそすれ、こんな風にこそこそ陰口を叩かれるような謂われは無い。ザンザスは周囲の様子など全く意に介さず、ボンゴレの前に進み出る。
「仕事の終了の報告に上がった。報告書は明日出す。」
ザンザスは簡潔に述べ、十代目沢田綱吉の傍で、自分の無事を喜んでいるらしくほわりと綻んでいる山本を見つけ、呼ぶ。
「帰るぞ」
それだけ言って黒のコートを翻した男の後ろを、長い足でぽんぽんっと跳ねるように山本は追い駆け、くるりと一度振り返ると綱吉や他の守護者達に手を振った。
「んじゃツナ!明日ザンザスの報告書持って来るからなー!」
パタンと静かに扉は閉まり、次いでアクセルを噴かす音がしたかと思うとしんとしていたホールのあちらこちらからほーっと安堵の息が漏れ聴こえた。
「・・・つかあいつ、報告は二の次で山本迎えに来ただけなんじゃないんですかね」
右後ろにいる獄寺の面白く無さそうな呟きに、綱吉はまぁその通りだろうなと、暗殺者の癖にこりゃまた可愛らしいお誘いだとワインを燻らしつつ笑った。


「で」
「で?」
ヴァリアー城へ帰る途中の大きな湖の傍、アクセルを踏むのをやめてザンザスは側道に車を止めた。観光名所の湖は厳冬期で現在は閉鎖中。珍しく雪の無い今夜は冷えた空気に冴え冴えと蒼い月が顔を見せていた。
「ガキにはケーキの作り方、ひとの女にはケーキにドレスにミラノ観光。俺がいねえ間に随分と楽しいクリスマスを過ごしたようだなぁ?」
どこかとげのある言い方に思えたが、山本は特に気にもせず。車が止まったのをいい事に、シートベルトを外して横の男の襟首を掴んで、今はくすんだ鉄錆の匂いのする髪を掻き分け額の傷に口付けを落とす。
「そりゃ、アンタいねえんだから他で楽しむしかないだろ?」
慣れた手つきでザンザスのシートベルトも外して膝の上に乗り上げると、両の頬を硬い掌で包まれてすぐに熱い唇が触れてきた。真っ黒な夜空には光り輝く星々が、まるでクリスマスのイルミネーションのように瞬いている。その中でも一際明るい光を放つ星の真下辺りが二人の帰る場所。
「・・ここで?」
首筋の匂いをかぎつつ耳の裏を舐め上げながら、ザンザスの胸震わす深い声。ふるりと素肌が粟立ったものの、山本は男の指の一本を銜え、舌先で包みちゅ、と吸い付き離すと自分の座席へと戻った。
「まずは俺にアンタの体洗い流させてくんない?んで、風呂で一回と上がってベッドで一回と」
あとはまぁできるだけいっぱい。そう言ってザンザスの手に指を絡ませ、山本はその肩へと頭を乗せる。珍しく甘えるような仕草に気を良くしてちらりと横目で見れば、薄赤い、というよりは真っ赤な顔・・・。
ザンザスの特徴のある眉が、ピクリと跳ね上がった。
「・・・・・またしこたま飲んだな・・・?」
「え〜何だよそれー。寂しかったんだぞ心配したんだぞー、飲まなきゃやってらんないだろー」
先程から気になっていたが、その舌足らずな口調。とろんとした目つき。どこかふわふわとしたおぼつかない足取り・・・。
自分が熱を高めたせいだけでは断じてない!ザンザスは山本の後ろ頭を思い切り叩いた。―――いちおう、平手で。
「嘘付け!てめぇ人をダシにしてどんだけ飲んだんだっ!?」
「ひでぇ!!ザンザスの鬼!乱暴者!それに比べてディーノさんは相変らず優しかったぜ!」
「は、跳ね馬!?」
「小僧だってこんな時は飲んで体だけでも温かくなれって、秘蔵のスコッチとかっての飲ませてくれたし!!」
「・・・・・・・あの殺し屋め・・!!」
「骸はリラックス効果があるとかいう花の香りのお酒飲ませてくれたし、ああ白欄が折角持って来てくれたのにウイスキーボンボンは食えなかったけどっ・・!でもみんな優しくしてくれたんだぜ!それに比べてアンタなんか、うわっっ!?」
次に誰かの名前を吐き出す前に、ザンザスはさっさと山本のシートベルトを外しリクライニングを倒して唇を塞いだ。
「・・む・・んぅ・・!?・・」
こっちが一刻も早く仕事を終わらせようと必死になっていた間に、あろうことか自分に想いを寄せている男をはべらせて飲んで歌って踊って(?)いたなんて。


許せるか・・・!!!


風呂なんて待っていられない。寂しくて心配でどうしようもないから他の男と飲んだのだと言うなら、そんな奴らに見向きもしたくなくなるくらい自分を与え続けるだけだ。
「存分に味わわせてやる」
耳元に囁きつつ、乱暴に山本のシャツを掴めば、その拍子にボタンが千切れ飛んでザンザスの頬に当たったが、そんなどうでもいいことには目もくれず。肌蹴た胸を思うが侭彷徨えば、身じろいだ山本がごつっ!と額をぶつけて来た。
「ってぇなテメェ!」
「・・・ばかやろ」
その小さく届く、拗ねたような声が沸騰していた頭に水を差す。
ゆっくり身を起こして顔を覗きこめば、酔いと羞恥の熱に浮かされ真っ赤になった山本が、どこか潤む瞳をこちらに向けていた。そのまますり、と赤くなった額をザンザスの肩に擦り付ける。
「・・・ごめん・・でも寂しかったのは本当なんだぜ。仕事だってわかってるし、しょうがねぇって思ってるけど会いたくて会いたくて、早く帰って来いってずっと待ってたんだ」
プレゼントなんていらないから、早く無事な姿を見せて欲しい。冷えた体を早く温めてやりたい、と。他の人じゃ満たされない。欲しいのは傷だらけの硬い腕――。
切なく、けれど素直に呟いてみた山本の唇は、言葉ごとザンザスに飲み込まれてしまった。
「・・・望んでいたものは、手に入ったか・・?」
「・・・うん。お帰り」
「ああ・・」
山本はそのままザンザスの首に手を回した。重なり合う二人を闇夜に浮かぶ白い月だけがひっそりと見つめていた。



おわり

【冬の愛しい】5のお題
 お題配布元starry-tales
アドレス:http://starrytales.web.fc2.com/




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