リクエスト・企画小説
白い雪に足跡つけて <武とユニ>
白い雪に足跡つけて <武とユニ>


冬の夜は嫌い。ガラス窓は風でカタカタ震えてばかりで、風の音だけが耳について、おまけにときどき動物の鳴き声まで聞こえるような気がするんだもの。
「ユニ、そういうときは楽しい事だけ考えてごらん」
大きな手でぽんぽんと優しく髪を撫でながら、その人はこっちにおいでとキッチンへ私を連れ出した。


どこから取り出したのか可愛い大きな苺模様のエプロンは私に。笑うその人がつけているエプロンの柄は、クリスマスの必需品、クリスマスツリー。
「お母さんにケーキ作って驚かしてやろうぜ」
「え!?わ、わたしに作り方おしえてくれるの?!」
その人はにっこり笑って、持ってきた大きな袋から沢山の物を取り出した。広い家、広い部屋、広いキッチン。けれどここでは私は火を扱ったりできない。
危ないから。そして何より怪我などできない、大切な体であるから――らしい。
ボールに泡だて器、小麦粉、ベーキングパウダー、間に挟むのはもちろん真っ赤な苺。
粉をふるいにかけたら、ふわっとした細かな物が顔に思い切りかかってでクシャミが出て、たくさん粉を吹き飛ばしてしまった。その先でクリスマス柄のエプロンが白く染まって、パタパタ払うその人がとても優しく笑うから、顔を見合わせて同じように笑ってしまう。
オーブンで焼いていたときに思わず熱い天板に額をくっつけて慌てた私に、額を冷たいタオルで冷やしてくれているその人が口を手で覆って笑っているのが分かったから、また笑って。
スポンジが焼きあがって冷めるまでの休憩タイムに、外で雪だるまを作った。余り積もってなかったから小さな物だけれど、窓の枠に飾ったらお手伝いのおじさんおばさんが上手に出来ましたねって褒めてくれて嬉しかった。
生クリームに苺を乗せていて、あまった苺がとっても美味しそうでじっと眺めていたら「はい、あーん」って言われて反射的に口を開いたら、ポコンと放り込まれた。甘酸っぱい果汁が口いっぱいに広がって、あんまり美味しくて頬に手を当てていたら可愛いねって笑われて。

・・・恥ずかしくて笑えなくなった。


「また来るな」
手を振って暗い夜道を帰っていくその人に、私も窓を開けて精一杯手をふる。ケーキを作っている間にまた白く積もった雪の上には、あの人の足跡だけ。
楽しい事を沢山教えてくれるあの人の足跡。寂しい気持ちを明るくしてくれる、魔法使いみたいなあの人の。


今夜このまま雪が降らずにあの足跡が残っていたら、上からなぞってみようかな。
そしたらもっと、楽しい事が増えてくれるような気がするから。




おわり
隠れ家に姪っ子を尋ねてくるおじさん武(笑)もしくは可愛い妹を訪ねるにいちゃん。


【冬の愛しい】5のお題

 お題配布元starry-tales
アドレス:http://starrytales.web.fc2.com/

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